本研究は捕獲を伴わずに多数の個体由来のDNAを回収して魚類個体群の遺伝的多様性を網羅的に分析すべく、近年発展してきた環境DNA分析によってそれを可能にする技術の開発を目的として実施した。 一つ目の課題であった環境DNA分析によって野外環境水から対象個体群内のハプロタイプを網羅的に検出できる技術の確立には、分析に用いる次世代シーケンサーから出力される膨大なデータの中から効率的にPCRエラーやシーケンスエラーによる誤読を排除できる有効な実験ステップとデータクリーニングの方法が必要になる。これらについては水槽水試料を用いて平成28年度に実施した基礎研究でかなり進んだ。しかし、データクリーニング(denoising)の解析手法として新規に報告された方法論を本研究でも利用できることが判明し、29年度にはその検証を進めた。結果として、新たなdenoisingアルゴリズムであるDADA2は環境DNAに基づくハプロタイプ評価の場面でも適切なデータクリーニングが可能であることが明らかになった。 本研究ではアユ(Plecoglossus altivelis altivelis)を対象種としており、ハプロタイプ情報について既存の知見がある琵琶湖への流入河川から得た環境DNA試料の分析に用いて、本研究で確立した方法が野外試料に応用できるかを試した。まだ改善の余地は残されているものの、本研究で目指していた環境DNA分析によるハプロタイプ多様性の評価の実施が十分可能な手法が確立できた。 二つ目の課題である希少種への本分析手法の展開であるが、これは実地での応用まで進むことはできなかったが、カワバタモロコ(Hemigrammocypris rasborella)を対象として遺伝的多様性を評価するためのプライマーセットを完成させた。今後、野外試料をもちいた分析を試みたい。
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