生物の体色は色覚を持つ動物と関わることで進化する.しかし,色覚の発達した脊椎動物の捕食対象とならない小さい昆虫も多様な体色を持っている.一方で捕食寄生性の昆虫は視覚で宿主となる昆虫を探索する.そのため,昆虫の体色は捕食寄生性昆虫からの淘汰によって進化したのかもしれない. 北海道固有の昆虫オオルリオサムシとアイヌキンオサムシの体色は北海道北部では一様に赤いが,南部では地理的変異が大きい.またしばしば体内から寄生バエの幼虫が得られる.2種は北海道北部では寄生バエからの淘汰により赤い体色を維持しているが,南部ではその淘汰が弱く,体色が多様化していると予想される.そこで2種の系統と体色の関係ならびに寄生者群集の地理的分布を調査した. 次世代シーケンサーを用いた分子系統解析を行ったところ,オオルリオサムシは渡島半島から石狩低地帯に辿り着いた後に北海道北部と東部(日高地域)へ分布を拡大していた.一方,アイヌキンオサムシは日高地域から石狩低地帯に辿り着いた後に北海道北部と渡島半島へ分布を拡大していた.こうした系統分岐と分光計測のデータを組み合わせると,2種のオサムシは体色とその多型頻度を変化させながら系統分岐を繰り返しており,北海道北部に分布を拡大した系統で赤い体色への進化(収斂)が起きたことが明らかとなった. またオサムシから得られた寄生者のDNAバーコーディングを行ったところ,3種(ヤドリバエ科Zaira cinerae,ハナバエ科sp.,シリボソクロバチ科sp.)に分類された.興味深いことに,石狩低地帯より北ではヤドリバエ科が,南ではハナバエ科がオサムシを宿主として利用していた.これらの結果により,もともと異なる体色であったオオルリオサムシとアイヌキンオサムシが,北海道北部でZ. cineraeからの淘汰圧を受けることで,よく似た体色へと進化したことを示唆された.
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