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2016 年度 実施状況報告書

エゾサンショウウオの表現型可塑性を引き起こす遺伝基盤とその進化過程

研究課題

研究課題/領域番号 16K18613
研究機関琉球大学

研究代表者

松波 雅俊  琉球大学, 医学部, 特命助教 (60632635)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード生態発生学 / 表現型可塑性 / 両生類 / サンショウウオ / 脳下垂体 / RNA-seq / RAD-seq / 系統地理
研究実績の概要

表現型可塑性は,変動する環境の中で生物が生き抜くために重要なものである。エゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)の幼生は表現型可塑性による形態の多型を示し、生態学の対象として研究が蓄積されてきた。しかし、実際に可塑性を引き起こす原因となる遺伝子については何も分かっていない。さらには、どのようにして本種が表現型可塑性を手に入れ、進化したかについても不明である。本申請課題では、本種を対象として次のことを明らかにすることを目的としている。①表現型変化を引き起こす内分泌系反応に関連する遺伝子の発現変動を解析し、生態学的環境に応答する可塑性の分子機構を解明する。②「形態」と「形態の可塑性」の地域間変異の研究と共同して、地域集団間の集団遺伝学的比較分析を行い、可塑的表現型進化のプロセスを明らかにする。
本年度は、上記の目的を達成するために以下の解析を行った。①表現型可塑性を引き起こす内分泌系の変化を明らかにするために脳下垂体を用いたトランスクリプトーム解析を行い、可塑性間で発現が変化するホルモン遺伝子を同定した。②マイクロサテライトマーカーを用いた系統地理学的解析と地域集団間の可塑性能力の比較、RAD-seqを用いたゲノムワイドでのSNPの同定をおこない、今後の可塑性の進化学的解析の基盤を構築した。
これらの成果の一部であるマイクロサテライトマーカーの解析を論文として報告した。また、研究成果を3件の招待講演で発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本年の研究の結果、以下のような進展があり、計画は順調に進展していると言える。①脳下垂体に焦点を当てたトランスクリプトーム解析の結果、可塑性間で異なる発現変動を示す5つのペプチドホルモンが、可塑性の原因遺伝子の候補として同定された。これらのホルモンは可塑性の発現において非常に重要な役割を担っていると考えられる。②北海道内の5つの地域で卵の採集をおこない、同一の条件で攻撃型可塑性の形態変化を誘導した。形態測定の結果、集団に応じて、可塑的変化能力は異なることがあきらかになった。また、RAD-seqによる多型解析の結果、各集団は明瞭に異なる遺伝構造を持つことがわかり、可塑性はそれぞれの集団で独自に進化したことが示唆された。今後はこれらの成果の論文化を目指し、並行してさらに研究を進める予定である。

今後の研究の推進方策

本年度の研究成果により、今後の研究の基盤が構築された。次年度は、これらの成果を元に以下のような研究を遂行する予定である。①トランスクリプトーム解析の結果得られた可塑性間で異なる発現変動を示す5つのペプチドホルモンから、可塑性を引き起こす原因となる候補遺伝子を選別し、その可塑性発現における役割を解明する。機能解析には同じ有尾両生類であり、効率的に遺伝子の機能が解析できる種々の系が確立されているイベリアトゲイモリを用いる予定である。イベリアトゲイモリ幼生を用いて可塑性の誘導系の確立を目指し、さらにゲノム編集により候補遺伝子の機能を阻害する。これにより候補遺伝子の機能が明らかになり、表現型可塑性の分子基盤が解明されることが期待される。②RAD-seqによる多型解析の結果から各集団において自然選択を受けている座位に偏りがあれば、その領域を特定する。自然選択を受けている座位は、集団間の可塑性の違いと関係している可能性があるので、その領域に存在する遺伝子の機能を推定する。これまでの研究により既にエゾサンショウウオのトランスクリプトームデータを保有しているので,高い選択圧を受けている座位が遺伝子領域と一致すれば、可塑性の進化と相関する遺伝子を選別することができる。有力な候補遺伝子が見つかった場合、定量PCRを用いて可塑性誘導時に実際に遺伝子発現が上昇しているかを確認し、ゲノム編集による機能阻害実験を検討する。

次年度使用額が生じた理由

今年度は大規模な塩基配列決定を予定していたが、これにかかる費用を予定より抑えることができたため、繰越金が生じた。

次年度使用額の使用計画

今年度は、解析の結果得られた候補遺伝子の機能解析を中心に研究を進める。研究費は、ゲノム編集やホルモン投与による分子生物学実験を計画しているための消耗品費、論文掲載費用、サンプリング・国内学会での発表・共同研究者との打ち合わせの費用として、使用する予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)

  • [雑誌論文] Population structure and evolution after speciation of the Hokkaido salamander (Hynobius retardatus)2016

    • 著者名/発表者名
      Masatoshi Matsunami, Takeshi Igawa, Hirofumi Michimae, Toru Miura, Kinya Nishimura
    • 雑誌名

      PLoS One

      巻: 11 ページ: e0156815

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0156815

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [学会発表] エゾサンショウウオ幼生の表現型可塑性のゲノム基盤2017

    • 著者名/発表者名
      松波 雅俊
    • 学会等名
      第122回日本解剖学会総会・学術集会
    • 発表場所
      長崎大学坂本キャンパス(長崎県長崎市)
    • 年月日
      2017-03-28 – 2017-03-30
    • 招待講演
  • [学会発表] エゾサンショウウオの表現型可塑性についての生態発生学2016

    • 著者名/発表者名
      松波 雅俊
    • 学会等名
      山口大学第6回理学部講演会
    • 発表場所
      山口大学理学部14番講義室(山口県山口市)
    • 年月日
      2016-12-21 – 2016-12-21
    • 招待講演
  • [学会発表] Evolution of prey-induced phenotypic plasticity in the Hokkaido Salamander (Hynobius retardatus)2016

    • 著者名/発表者名
      Masatoshi Matsunami, Jun Kitano, Osamu Kishida, Hirofumi Michimae, Atushi Nagano, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, Naoki Osada, Toshinori Endo, Toru Miura, Kinya Nishimura
    • 学会等名
      22nd International Congress of Zoology & 87th meeting of Zoological Society of Japan
    • 発表場所
      Okinawa (Japan)
    • 年月日
      2016-11-14 – 2016-11-19
    • 国際学会
  • [学会発表] エゾサンショウウオの表現型可塑性についての生態発生学的研究2016

    • 著者名/発表者名
      松波 雅俊
    • 学会等名
      第8回生命情報科学若手の会研究会
    • 発表場所
      大滝セミナーハウスおよび北海道大学
    • 年月日
      2016-10-12 – 2016-10-14
  • [学会発表] エゾサンショウウオの表現型可塑性についての生態発生学的研究2016

    • 著者名/発表者名
      松波 雅俊
    • 学会等名
      第2回ユニークな少数派実験動物を扱う若手が最先端アプローチを勉強する会
    • 発表場所
      岡崎コンファレンスセンター(OCC)(愛知県岡崎市)
    • 年月日
      2016-08-21 – 2016-08-22
    • 招待講演

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公開日: 2018-01-16  

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