強すぎる光は光合成器官に傷害をもたらし、光阻害と呼ばれる光合成活性や成長速度の低下を引き起こす。これまで、植物が持つ光阻害回避機構について多くの研究が成され、植物が多様な光阻害回避機構を備えていることが明らかになっている。植物がこれだけ多くの光阻害回避機構を進化させてきたことは、光阻害耐性にそれだけ強い淘汰圧がかかってきたことを示唆するが、光阻害が種の分布・分化にどのように影響してきたかという知見は乏しい。そこで、本研究では、世界中の様々な標高や緯度から集められたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)エコタイプを用いて、光阻害修復能力の差を調べた。初年度では、低温での光阻害修復能力と由来地の環境パラメーターとの関連性の検出を試みた。その結果、各エコタイプの由来地の気温と、低温での光阻害修復速度に有意な負の相関が見られた。最終年度では、低い温度で生育された葉では、光阻害回避能力が低温順化によって向上しているかを明らかにするため、22℃での生育後、低温順化処理として12℃で3日間生育させた葉と、コントロール処理として、環境は同じだが22℃で3日間生育した葉を用意し、光阻害速度および光阻害修復速度を調べた。低温に順化させた葉は、コントロールの葉に比べ、低温での光阻害修復速度が有意に上昇していた。そして、この低温順化による低温での光阻害修復速度の増加率も、各エコタイプの由来地の気温と有意な負の相関を示した。これらの結果は、低温での光阻害ストレスに晒されることが多いシロイヌナズナエコタイプでは、低温での光阻害回避機構に選択圧がかかり、低温での修復速度をできるだけ高く保つような適応が起こった可能性を示唆する。光阻害修復能力が植物個体の分布に影響が及ぼす可能性を示しており、国内外に強いインパクトを与えると考えられる。
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