研究課題/領域番号 |
16K18615
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 麦野 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (10582760)
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研究期間 (年度) |
2017-02-07 – 2021-03-31
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キーワード | ニホンジカ / ニホンカモシカ / マイクロウェア / 歯 / 食性推定 / 古環境復元 / リュウキュウジカ / 更新世 |
研究実績の概要 |
現生ならびに化石動物を対象とした歯の微細磨耗痕(マイクロウェア)の分析を推進した。 1)現生種の分析:ニホンジカとニホンカモシカについて、胃内容物分析が行われている個体を対象にして、胃内容物(死亡直前に食べていた食物)と歯のマイクロウェアの関係について調べた。その結果、イネ科植物(多くはササ)を多く含んでいるカモシカ個体では、表面粗さが大きかったのに対し、木本植物の葉を多く含む個体では表面粗さは小さかった。一方で、ニホンジカでは胃内容物と歯の表面粗さの対応関係が見られなかった。マイクロウェアのターンオーバーの日数(数日~数週間)を考えると、野生動物では胃内容物とマイクロウェアに対応関係はないと従来報告されてきたが、カモシカではその予想に反していた。これはカモシカが縄張りへの固着性が強く、死亡直前に食べた物が常習的に利用する植物を反映していたためと考えられた。一方でシカはカモシカよりも移動性が高く、採食イベントごとの餌植物のばらつきが大きく、胃内容物とマイクロウェアの対応関係は弱くなるためと考えられた。この成果については、国際学会で発表し、現在投稿論文を準備中である。 2)化石種の分析:沖縄本島の更新世末期の洞穴遺跡(山下町第一洞穴遺跡、ハナンダガマ遺跡)から出土した、リュウキュウジカのマイクロウェアを分析した。現生ニホンジカ集団間で得られていたマイクロウェアとイネ科消費量の対応関係を当てはめることで、リュウキュウジカのイネ科採食割合を推定した結果、ハナンダ遺跡ではブラウザー型とグレーザー型の二峰に分かれたが、山下町ではグレーザー型の個体が圧倒的に多かった。この違いは、遺跡の立地に起因する植生環境の違いを反映しているものと考えられ、マイクロウェア分析により小スケールの古環境の差を検出できる可能性が示された。この成果については国際誌に論文を投稿し、現在査読結果を受けて改訂中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロウェアの研究について、国際学会発表と国際誌への論文投稿ができて、順調に成果発表ができている。これをもとに房総ニホンジカの個体ベースでの食性推定もできる見通しが立てられた。ただ房総ニホンジカの標本調査については、2~3月に予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、調査が困難となり、今年度は見送ることになった。
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今後の研究の推進方策 |
房総のニホンジカの標本調査について、次年度以降に関係者と調整のうえ進めたいが、越境調査となるため新型コロナウイルスの感染状況をみて慎重に判断したい。そのため、成果が今年度まで順調に出ていて、また今後の研究の発展も見込まれるマイクロウェア分析について次年度以降も注力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度1~3月期で検討していた調査出張が新型コロナウイルス感染拡大のためキャンセルとなり、次年度使用額が生じた。次年度も研究活動については社会状況を見ながら、国内外の出張については慎重に判断する必要があるため、研究の効率化やリモート化を見据えて必要な設備投資に執行していきたいと思う。
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