研究課題/領域番号 |
16K18616
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊貴 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (80723626)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 音声 / 行動 / コミュニケーション / 進化 / 鳥類 |
研究実績の概要 |
近年の研究で,一部の哺乳類や鳥類が,異なる鳴き声を使い分け,捕食者の種類や食物の在処など,様々な情報を他個体に伝えることが明らかになってきた。しかし,このように複雑な音声コミュニケーションが,どのような要因によって進化したのか未だに明らかでない。群れを形成し,音声によって集団行動を統制する動物においては,社会関係が複雑になればなるほど,コミュニケーションもより精巧なものへと進化すると予測される。本研究では,冬季に同種・他種とともに群れ(混群)を形成するシジュウカラ科鳥類を対象に,社会的な要因(社会的相互作用や群れの種構成)がコミュニケーションの進化圧となりうるか検証することを目的とする。 本研究は,ひとつの鳥類群集を対象として,混群における社会的相互作用と音声コミュニケーションの複雑性の関係を詳細に調べる研究課題(課題1)と,複数の鳥類群集を対象とし,混群の種構成と音声の複雑さの関係を明らかにする地域間比較(課題2)の二つの課題に大別される。 平成28年度は,主に長野県軽井沢町にて課題1を主に進捗させた。その結果,混群の種間の優劣関係において劣位である種は,群れの動態をリードし,状況に応じて様々な音声を使い分けることが明らかになった。一方,混群において優位な種は,劣位種に追従し,様々な状況において単純な音声を汎用する傾向がみられた。 さらに,平成28年度は,北海道や隠岐島,石垣島においても野外研究を実施し,課題2も進捗させた。しかし,鳥類群集の種構成と音声の複雑さの関係を明らかにするには,より多くの調査地において野外研究を進める必要があり,これについては平成29年度に進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,当初の計画通り,長野県において,混群内での社会的相互作用と音声の複雑さの関係を明らかにする研究課題(課題1)を進捗させた。その結果,混群に参加する種が協同で餌の探索や捕食者の追い払いをおこなう際,種によってその役割が異なることがわかってきた。体サイズが小さく,餌場において種間での優劣関係が劣位な種(コガラ)は積極的に餌を探索し,特異な音声を発することで餌場に群れを誘引する。また,捕食者を追い払う際にももっとも激しく音声を発し,この際,複数の音声要素が組み合わさった音声を発することも明らかになった。この音声は警戒と集合という異なる意味の組み合わさった複合語であり,語順には文法規則も確認された。一方で,餌場における優位種は,劣位種に追従する傾向があり,異なる音声の使い分けや音声の組み合わせ規則は確認されなかった。 また,混群はいくつかの同種群から成り立つが,同種群の群れ構成が変わりやすく,群れの離散集合が激しい種(シジュウカラ)のほうが,いつも決まった個体と群れをなす種(ヤマガラなど)よりも音声が複雑に発達している傾向がみられた。これらの結果は,社会関係の複雑さが音声コミュニケーションを複雑化させる淘汰圧となるという仮説を支持する。 さらに,本年度は,北海道や隠岐島,石垣島においても野外研究を実施し,鳥類群集の種構成と音声の複雑さの関連性(課題2)についても調べた。 これらの研究成果の一部はすでに論文化しており,国際誌に投稿中である。また,本年度は,関連する研究成果を国際行動生態学会,日本鳥学会,日本動物行動学会,日本生態学会において発表した。
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今後の研究の推進方策 |
鳥類の群れの種構成は地域によって大きく異なる。鳥類の音声は同種のみならず他種に対しても情報を伝えるので,混群が多くの種から構成される地域の鳥類では,種構成が単純な地域に生息する鳥類と比べて,コミュニケーションが複雑に発達している可能性がある。この課題(課題2)については,これまでに,北海道や長野県,隠岐島,石垣島において,野外録音や捕食者提示実験などを通じてデータを収集してきた。しかし,混群の種構成と音声の複雑さの関係性を明らかにするには,より多くの調査地に出向き,データを収集する必要がある。 そこで,平成29年度は,より複数の調査地を設定し,野外実験をおこなうことで,鳥類の群集構造と音声構造の地域差の関係性について明らかにしたいと考えている。しかし,地理的に離れた複数の地域においてデータを収集するだけでは,音声の変化が遺伝的な変異によるものなのか,鳥類の種構成に応じた学習の結果なのか区別することは難しい。そこで,本年度は,遺伝的差異が想定できない,より小さなスケールにおいて,鳥類の種構成と音声の複雑さの関係を明らかにすることで,これらの可能性についても検証したい。具体的には,長野県の調査地において,山地から平地まで連続する調査プロットを設置し,音声の録音をおこなうことで,標高差による種構成の違いと音声コミュニケーションの関係について明らかにすることが可能である。 本年度は6月から9月にかけて,アメリカのモンタナ大学からAlexis Billings氏を招聘する予定であり(JSPSサマー・プログラムを利用),夏季は同氏と共に本研究課題についても推進させる計画である。 また,昨年度は主に音声の録音や解析に主眼をおいた研究をおこなってきたが,本年度は音声再生実験によって音声から情報を解読する能力を定量化し,社会性との関係も明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の調査において当初は課題1のみをおこなう予定であったが,学会などで各地に行く都合ができ,その際に課題2についても遂行した。このスケジュールの変更に伴い,費用の比較的多くかかる課題1の作業の一部を翌年度におこなうことになり,144,460円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は,上記の通り,平成28年度に実施しようと計画していた研究課題の一部が平成29年度に繰り越しとなったためである。そのため,2年間での研究課題や目的に大きな変更があるわけではない。次年度使用額として繰り越した144,460円は,当初の計画通り,課題1の野外研究にあてる予定である。
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