近年の研究で,一部の哺乳類や鳥類が,異なる鳴き声を使い分け,捕食者の種類や食物の在処など,様々な情報を他個体に伝えることが明らかになってきた。しかし,このように複雑なコミュニケーションが,どのような要因によって進化したのか未だに明らかでない。群れを形成し,音声によって集団行動を統制する動物においては,社会関係が複雑になればなるほど,コミュニケーションもより精巧なものへと進化すると予測される。本研究では,冬季に同種・他種とともに群れ(混群)を形成するシジュウカラ科鳥類を対象に,社会的な要因(社会的相互作用や群れの種構成)がコミュニケーションを複雑化させる進化圧となりうるか明らかにすることを目的とした。 本研究は,社会ネットワーク分析などを駆使して,混群における社会的相互作用と音声コミュニケーションの複雑性の関係を明らかにする研究(課題1)と,複数の鳥類群集を対象とし,混群の種構成と音声の複雑さの関係を明らかにする地域間比較(課題2)の二つの課題に大別される。 最終年度である平成29年度は,主に長野県軽井沢町にて課題1について研究を進捗させた。また,6月から8月にかけてアメリカのモンタナ大学からAlexis Billings氏を招聘し(JSPSサマー・プログラムを利用),本研究課題についても推進させた。さらに,北海道や滋賀県,福岡県においても野外研究を実施し,課題2も進捗させた。 研究期間全体を通して,これらの研究課題はおおむね順調に進んだと自己評価する。また研究内容は6編の論文として発表しており,現在もなお複数の論文を執筆中である。また,研究内容は学会においても高く評価され,2018年3月に開催された日本生態学会では日本生態学会宮地賞を受賞した。
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