本年度はこれまでの野外調査で取得した行動データの解析および結果のまとめに取り組んだ。繁殖期は雛の防衛や給餌のため一定時間内に巣に戻る必要があり、採餌範囲や行動が制約される。一方、非繁殖期は自身の生存可能性を最大化するような行動を示すことが予想される。そこで、ジオロケータに記録された行動データを解析することで、マゼランペンギンの非繁殖期の空間利用動態および潜水行動を明らかにした。 ジオロケータに記録された照度データを統計的手法により解析した結果、マゼランペンギンの非繁殖期の主要な越冬海域には雌雄差が見られることがわかった。空間分布の差異の原因として、体の大きさの性差が関連していると考えられる。一般的に、体が大きい方が深くかつ長時間水中に潜ることができ、効率的に餌を採ることができる。このことから、体の小さいメスはオスとの餌を巡る競合を避けるため、非繁殖期にはより繁殖地から遠い海域まで移動していると考えられる。一方、水中は空気中よりも熱伝導率が高く体温を失いやすいため、メスは低緯度の水温が暖かい海域を利用するのかもしれない。この結果は、潜水採餌性海鳥の潜水適応や空間利用には、体の大きさに伴うエネルギー収支が要因の一つとなっている可能性を示唆する。 ブラジル南部からアルゼンチン北部にかけての海岸では、毎年数千羽のマゼランペンギンがストランディングすることが報告されており、ストランディング個体はメスに偏っていることもわかっている。本解析により、マゼランペンギンのメスの非繁殖期の利用海域は人為活動の盛んな海域と重複しており、本種におけるメスに偏ったストランディングに繋がっていると考えられる。以上の研究成果は、国内外の学会などで発表した。また、英文学術雑誌Current Biologyに査読付き論文として発表し、国内外の様々なメディアで取り上げられた。
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