研究課題/領域番号 |
16K18625
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
川津 一隆 龍谷大学, 研究部, 特別研究員(PD) (20747547)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 種間相互作用 / 密度依存性 / 非線形時系列解析 / スイッチング捕食 / マメゾウムシ |
研究実績の概要 |
種間相互作用の密度依存性は,生物群集の動態,構造,存続可能性に大きく影響することが理論的に示唆されている.にもかかわらず,密度依存性に内在する三つの問題:観察,解析,操作,を野外で行うことの困難さから,それらの理論の検証はほとんど行われてこなかったのが現状である.本研究では,近年発展しつつある新たな非線形時系列解析法EDM(Empirical Dynamic Modeling)に着目することで,上記の問題を解決し種間相互作用研究を新たなステージに押し上げるための解析枠組みの開発を最終的な目標としている. 平成28年度は,その目的遂行のため,まず,1)種間相互作用の密度依存性が群集の安定性に与える影響の理論的研究を行った.次に,2)既存のEDMの解析法を改良し,変動する時系列データから直接種間相互作用の密度依存性を検出する手法,および検出した密度依存性のみを改変することで密度依存の相互作用が生物の動態に与える影響を評価する手法,という二つからなる解析の枠組みを開発した.さらに,3)開発した手法を,密度依存性が所与のモデルから生成した人口時系列データに適用することで,手法の妥当性とプロセスノイズ・観測誤差に対する頑健性をテストした.最後に,4)その手法を密度依存的な種間相互作用が推定されている室内多種実験系の時系列データに適用することで,実際の時系列データから密度依存性を検出し,その重要性を評価できるかについての検証を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)種間相互作用の密度依存性が群集の安定性に与える影響を解析する理論研究を行った.その結果,密度依存の多様性が群集の複雑性-安定性関係に大きく影響することがわかった. 2)既存のEDM解析は変動する時系列データから種間相互作用の検出は可能だが(Deyle et al. 2016),密度依存性の検出は不可能であった.今回,その原因がEDMによる相互作用強度の推定値に予測先の時系列データの情報が含まれるためであることを明らかにした.さらに,微分積分学の理論を応用することでその情報を除去する手法,および,推定した相互作用強度を密度が類似する時点間でシャッフルすることで密度依存性を保存したまま相互作用強度を操作する手法を開発した. 3)開発した手法を,種間相互作用モデルから生成した時系列データに適用した.モデルでは密度依存性を任意の値に操作し,また様々なプロセスノイズ・観測誤差を与えることができるようにした.その結果,相応の誤差のもとでも所与の密度依存性を正しく評価できることが明らかとなった. 4)開発した手法を,マメゾウムシ-寄生蜂室内実験系の時系列データに適用した.この系は,アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシという近縁二種とその共通の寄生蜂を導入したもので,その寄生蜂がスイッチング捕食を行うことで系の長期存続が可能になっていることが示唆されている(Ishii & Shimada 2012).今回の手法はそのスイッチング捕食を動態から検出し,さらにその密度依存性を破壊すると系の共存時間が大きく減じることがわかった. これらの結果は,当初の実施計画の目標を大きく超える成果であり,3件の学会発表,1件の学会シンポジウム発表,3件の集会発表を行った.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,前年度で得られた結果の普遍性を確認するために,開発した手法を他の実験系,及び野外の多種群集時系列データに応用する.実験系のデータとしては,ゾウリムシ-繊毛虫実験系(捕食-被食関係),二種寄生蜂-ヨツモンマメゾウムシ実験系(間接相互作用),コクヌストモドキ-ヒラタコクヌストモドキ実験系(ギルド内捕食関係)を想定している.前年度に開発した手法をこれらのデータに応用することで,共存時間が長い系ほど負の密度依存性が強く,またそれらを破壊すると共存時間が著しく減少することを確認する.これらの実験データは既発表の論文,及び協力研究者である九州大学の津田みどり准教授,国立環境研究所の岸茂樹博士からすでに取得済みである.また,安定的に存続する野外群集の時系列データを用いて,群集内の重要な種間関係にしめる負の密度依存的な相互作用の割合を検証する.解析には,英国におけるアブラムシ-寄生蜂群集の野外調査(Silwood)データおよび,北米大陸で繁殖する鳥類の観察(BBS)データを用いる. 前年度に得られた理論研究と,手法開発をそれぞれ別個に論文化し国際誌での出版を目指す.また,実験系及び野外群集でのテストについても結果が得られ次第論文化し,投稿を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入予定であった計算用ワークステーションにおいて,解析に見合う性能のものが当該年度になかったため.
|
次年度使用額の使用計画 |
改めて次年度に計算用ワークステーションを購入する予定である,
|