研究課題/領域番号 |
16K18626
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
宮川 美里 (岡本) 岐阜大学, 応用生物科学部, 研究員 (00648082)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 真社会性昆虫 / カースト決定機構 / RNA-seq / H&E染色 |
研究実績の概要 |
社会生物学において、繁殖カースト(女王)・労働カースト(ワーカー)の決定機構を解明することは、真社会性の進化を理解する上で重要である。近年、アリ・ハチを含む真社会性膜翅目昆虫では、次世代シークエンスなど最先端の手法を駆使し、カースト決定遺伝子の解明が進められている。しかし、カーストは発生初期に識別できない(あるいは決定していない)という膜翅目昆虫ならではの問題があり、責任遺伝子の解明が非常に難しい。本研究は、カーストが遺伝的に決定している種(ウメマツアリ Vollenhovia emeryi)の利点を活かし、卵から幼虫を用いた遺伝子発現解析より責任遺伝子の解明を目的とし、研究を遂行している。平成28年度は研究遂行に必要な以下2点の実験手法を確立した。 (1)本研究では、遺伝子発現解析のためのサンプルを各発生ステージ(卵~終齢幼虫)・カーストごとに用意する必要がある。したがって、個体ごとにDNAとRNAを同時に抽出し、カーストを知るための遺伝子型解析とトランスクリプトーム解析に使用する必要がある。平成28年度は1個体からRNAを抽出し、そこにコンタミしたDNAを遺伝子型解析に用いることで、トランスクリプトーム解析と遺伝子型解析(マイクロサテライト解析)を行う方法を確立した。 (2)薄切切片を用いたヘマトキシリン・エオシン染色により、これまで外見では判断できなかったカーストごとの発生状態を知ることが可能になった。平成28年度は、発生初期の卵や幼虫の薄切切片作成や観察技術を確立できたことから、今後は①発生ステージ、②トランスクリプトーム、③カーストの情報に加えて、④発生状態(特に卵巣発達や卵巣退化など生殖に関連した情報)を同時に知ることが可能となり、カースト分化に関わる組織学的知見のみの研究や、トランスクリプトーム解析のみに注目した研究以上に詳細な知見を得ることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カーストが遺伝的に決定しているウメマツアリにおいて、女王とワーカー間でステージ(卵から幼虫)ごとの遺伝子発現解析を行い、カースト(女王またはワーカー)分化に関わる責任遺伝子の解明するため、これまでに研究遂行に必要な以下2点の実験手法を確立した。 (1)個体ごとにRNAとDNAを同時に抽出し、カーストを知る為の遺伝子型解析と生体内の遺伝子転写産物を知る為のトランスクリプトーム解析を行うため、まずは液相分離による方法を用いたRNA抽出を行った。この方法ではRNAに加えて少量のDNAもコンタミしてしまう。しかし、コンタミしたDNAを用いることで安定して遺伝子型解析が可能であり、カーストを特定できることを確認した。この方法により、外見ではカーストが判別できない卵や初齢幼虫でも、個体ごとにRNA抽出と遺伝子型解析によるカーストの識別を行い、カースト・齢ごとにトランスクリプトーム解析に必要な量だけのサンプルをプールすることが可能になる。 (2)現在までに、卵や幼虫で薄切切片作成し、ヘマトキシリン・エオシン染色によりカーストごとの発生状態を知ることが可能になった。トランスクリプトーム解析のデータに加えて組織学的知見を得ることで、カースト分化に関わるより詳細な情報が得られることが期待できる。 また、本研究とは独立したテーマで行なっている性決定関連因子の探索を目的とした研究において、性決定因子として知られるdsx遺伝子を単離することに成功した。近年、dsx遺伝子の発現量が発生後期においてカースト間で異なる知見が他種で発表されたため(Klein et al. 2016 PLOS Genetics)、本種においてもdsx遺伝子発現を女王とワーカー間で比較した。しかし、本種では両者の間の発現に違いが見られなかったことから、dsx遺伝子がカースト分化においてキーとなる遺伝子ではないことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は前年度の方法で確立した手法を用いて、トランスクリプトーム解析に必要な女王とワーカーのサンプルをステージごとに用意し、RNAシークエンス用のライブラリを作成し発現解析へと進め、カースト決定にかかわる責任遺伝子を探索する。さらに、RNAシークエンスに用いたサンプルと同じ齢・カーストのヘマトキシリン・エオシン染色した組織切片を作成し、特に卵巣など生殖に関連した組織の観察を行う。ステージごとに女王とワーカー間で発現解析を行い、重要であると考えられる遺伝子が発現している際の組織の様子から、カースト分化に関わる責任遺伝子の役割についての考察を行う。また、トランスクリプトーム解析によって重要だと考えられる遺伝子については本種のゲノムリシークエンスのデータから同義・非同義置換率を計算し、どのような性質の選択圧が生じているのかを考察する。 最終年度である本年度は、上記のすべての結果をまとめた論文執筆や学会発表の準備を行う。
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