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2016 年度 実施状況報告書

絶滅種エゾオオカミの生態学的役割の解明に向けた、骨の同位体分析による食性復元研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K18627
研究機関総合地球環境学研究所

研究代表者

松林 順  総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, センター研究推進支援員 (30756052)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワードエゾオオカミ / 絶滅動物 / 食性復元 / 同位体分析 / 骨
研究実績の概要

本年度は、北海道内の博物館及び埋蔵文化財センターに依頼し、エゾオオカミの骨格試料8検体分から安定同位体分析用の骨粉採取を行った。この他、エゾオオカミの餌資源となりうる陸上哺乳類及び海棲哺乳類の骨粉も、同一の遺跡から出土した試料よりサンプリングした。また、動物の骨を使った多元素同位体比履歴の復元手法開発のため、1970年代まで生きていた陸生哺乳類5種7個体分の大腿骨試料から骨片のサンプリングを行った。
エゾオオカミとその餌資源の骨粉試料は、コラーゲンを抽出後、食性推定用に炭素・窒素安定同位体比、死亡年代推定用に放射性炭素同位体比を測定した。1970年代の陸生哺乳類の骨片試料については、先行データとして、ヒグマの大腿骨のみ成長停止線ごとに分離して、放射性炭素同位体比分析を行った。
エゾオオカミは、8個体中の7個体で純粋なコラーゲンが抽出できたが、1個体はコラーゲンの純度が不十分であり、被熱した試料であったことが予測される。純粋なコラーゲンが抽出できた試料では、7個体中5個体がエゾシカなどの陸上哺乳類を利用していたことが示唆された。一方、残りの2個体ではサケや海獣類などの海産物にある程度依存していたことが示された。ヒグマ大腿骨の成長層ごとの放射性炭素同位体比分析では、骨の代謝に伴う同位体比の置換が、骨の中で一定で起こるのではなく、強く代謝される部位とほとんど代謝されない部位に分けられることが明らかになった。
本年度の研究成果から、絶滅したエゾオオカミは一部の個体群で海産物に依存していた可能性を強く示唆するデータが得られた。これは、これまで生態学的なデータが全く得られていなかったエゾオオカミで、初めて得られた食性情報である。この内容は、論文として国際学術誌であるJournal of Zoology誌に投稿し、掲載された。さらに、地方新聞やネットニュースで取り上げられ、注目を集めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

当初の予定では、初年度はサンプル収集とエゾオオカミのデータ取得までの予定であったが、論文執筆から掲載まで達成することができた。これは当初の予想以上の進捗速度であるため、上記の評価とした。

今後の研究の推進方策

今後は、ヒグマ以外の陸生哺乳類の試料について、放射性炭素同位体比分析を行い、本分析手法の妥当性と多種での再現性について調査する。また、これらのデータが得られ次第論文化し、国際学術誌への掲載を目指す。
併せて、手法の妥当性が確保できた段階で、エゾオオカミの試料についても大腿骨の骨片のサンプリングを各所蔵機関に依頼する。骨片の採取が可能であれば、この手法をエゾオオカミにも応用し、食性の時間変化を調査する。これによって、分析に使用していたエゾオオカミがアイヌに飼育された個体かどうかの判別や、おおまかな行動圏の大きさまで推定できる可能性がある。

次年度使用額が生じた理由

当初の計画では凍結式ミクロトームの購入に多額の予算を見込んでいたが、直前に所属機関が別予算で購入したため、本科研費で購入する必要がなくなった。しかし、次年度からは申請者の所属先が変更となるため凍結式ミクロトームを購入する必要がある。従って、残額を次年度使用とする。

次年度使用額の使用計画

申請者が獲得見込みとなっている別予算と合わせて、凍結式ミクロトーム(約150万円)の購入費に充てる予定である。

備考

新聞掲載:2017年1月28日毎日新聞(朝刊)25面、2017年1月26日北海道新聞(朝刊)3面、2017年2月24日苫小牧民報(朝刊)16面

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2017 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Testing for a predicted decrease in body size in brown bears (Ursus arctos) based on a historical shift in diet2017

    • 著者名/発表者名
      Matsubayashi Jun、Tayasu Ichiro、Morimoto Junko O.、Mano Tsutomu
    • 雑誌名

      Canadian Journal of Zoology

      巻: 94 ページ: 489~495

    • DOI

      10.1139/cjz-2016-0046

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Reconstruction of the extinct Ezo wolf’s diet2017

    • 著者名/発表者名
      Jun Matsubayashi, Tamihisa Ohta, Osamu Takahashi, Ichiro Tayasu
    • 雑誌名

      Journal of Zoology

      巻: 印刷中 ページ: 印刷中

    • DOI

      10.1111/jzo.12436

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 魚類・哺乳類の骨の分析から、軽元素同位体比の「履歴」を復元する2017

    • 著者名/発表者名
      松林 順
    • 学会等名
      日本生態学会第64回全国大会
    • 発表場所
      慶応大学
    • 年月日
      2017-03-18 – 2017-03-18
  • [学会発表] 絶滅したエゾオオカミ(Canis lupus hattai)の食性復元2017

    • 著者名/発表者名
      松林 順
    • 学会等名
      日本生態学会第64回全国大会
    • 発表場所
      慶応大学
    • 年月日
      2017-03-16 – 2017-03-16
  • [備考] 北海道にもいた!?海辺のオオカミ 絶滅したエゾオオカミの食性の復元

    • URL

      http://www.chikyu.ac.jp/publicity/news/2017/img/0125.pdf

URL: 

公開日: 2018-01-16  

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