セロトニントランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)は情動反応や社会的な認知に関与するとされていたが、その効果については文化的環境との相互作用等の要因からの検討が必要とされている。sアレルは東アジア集団で多く、過覚醒な反応が危険回避において適応的意義があったことが示唆されているが、実験的には明らかになっていない。従って本研究の目的は、5-HTTLPR多型によって先行刺激から不快または快情動を予期した時の画像への生理的・心理的反応が異なるかを主観評価及び事象関連電位(ERP)によって明らかにすることとした。予告刺激呈示の200ms前から0ms のFz部位における平均電位を算出し、予期不可能条件と可能条件の差を刺激先行陰性電位(SPN)として分析した。情動画像の呈示から400msと1000msの間のPz部位における電位の平均値を後期陽性電位(LPP)振幅として分析した。SPNは将来提示される刺激に対する準備、予期の活動を反映すると考えられているため、本実験の被験者においては予期した情動に関わらず同等の注意を払ったと考えられる。LPPについては、lアレルを持つ被験者は予期できる場合にのみ中立刺激よりも不快刺激に対してLPPが大きく、一方でss型の被験者は予期できないとき中立刺激よりも不快刺激に対してLPPを増大させた。快情動に対しては予期の有無や遺伝子タイプの差はなかった。以上から、本研究によりSタイプは未知の危険に対して、Lタイプは既知の危険に対しての注意反応が異なり、それぞれの遺伝子タイプによって危機回避の方策が異なる可能性が示唆された。
|