根は土壌から水や栄養分を吸収し、導管を介してそれらを地上部に送る。導管を介した物質輸送は蒸散流と根圧に依存し、蒸散流は気孔開閉により制御されることが知られるが、根圧の制御機構は不明である。そこで私は、地上部切断時に滲出する導管液の量が根圧を反映するという作業仮説を立て研究に臨んだ。 導管液滲出に関わる内的要因を明らかにするため、植物ホルモンの影響を調査したところ、ジャスモン酸による強い抑制効果、アブシジン酸(ABA)による弱い抑制効果、人工オーキシン(IAA)による弱い誘導効果が見られていた。そこで、それらホルモンをターゲットとし、導管液滲出液のホルモノーム解析を検討したところABAのみ検出した。導管液滲出量が増加する条件では、ABA量が低下するのかという問いに答えるため、滲出量が増加する高温条件でのABA濃度を調査したところ、予想に反し2倍増加した。この結果、高温時の導管液滲出量の増加にABAは関わらず、むしろ負のフィードバック制御機構が働き、ABA量が増加している可能性が考えられた。 IAAによる導管液滲出の弱い誘導効果の分子メカニズムを明らかにするため、オーキシンにより活性化する細胞膜プロトンポンプの関与の可能性を検討した。細胞膜プロトンポンプ活性を高めるフシコクシンを処理すると、導管液滲出量が1.5倍増加した。この結果、オーキシンによる導管輸送活性の増加には細胞膜プロトンポンプの寄与が示唆された。次に、細胞膜プロトンポンプのイネ変異体を単離し導管液量の調査を試みたが、残念ながらこの変異体は野生型に比べて極めて生育が悪く実験が成り立たなかった。 また、昨年見出した酸素欠乏以外の新たな導管液滲出に関わる外的要因を明らかにするため、貧栄養の影響を調べた。その結果、リン酸やカリウム欠乏時は導管液滲出量に変化は見られなかったが、窒素欠乏時は導管液量が低下した。
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