研究課題/領域番号 |
16K18641
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
春日 純 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (40451421)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バレイショ / 耐霜性 / 細胞膜 / プロテオーム / 細胞壁 / ペクチン / ミニチューバー |
研究実績の概要 |
本研究は、凍結感受性であるバレイショ栽培種(Solanum tuberosum)と耐霜性野生種(S. commersonii、S. acaule)の植物体に含まれるタンパク質の比較解析により、供試する野生種の持つ耐霜性に関わるタンパク質を特定することを目的とする。 平成28年度は、長崎県のバレイショ栽培における主要な栽培品種ニシユタカと野生種2種の供試系統の低温馴化処理前後での耐凍性と葉に含まれる可溶性タンパク質の変動の評価を行った。ニシユタカの葉は低温馴化処理の有無に関わらず-3℃の凍結で重度の傷害を受けたのに対し、S. commersoniiおよびS. acauleでは、低温馴化前から耐凍性が-3℃を超えており、低温馴化後にはそれぞれ-6℃と-5℃と言う高い耐凍性を示した。葉の可溶性タンパク質のショットガンプロテオーム解析では、栽培種、野生種を問わず低温馴化処理によって、解糖系や活性酸素除去系に関わるタンパク質の増加とタンパク質合成に関わるタンパク質の減少が見られた。耐霜性野生種2種のみで見られた特徴的な変化としては、低温馴化過程におけるペクチンメチルエステル分解酵素の減少があった。この結果から、耐霜性野生種では、低温馴化過程において耐凍性の向上に関わる特徴的な細胞壁構造の変化が起こることが予想された。 細胞膜タンパク質の分析については、未馴化の供試材料のバレイショ栽培種および野生種の葉から細胞膜画分を精製し、超低温フリーザー内に保存した。近く純度を確認し、平成29年度に細胞膜プロテオーム解析を進める。 水耕栽培によるミニチューバーの調整は、ニシユタカにおいては容易にできたが、野生種では今のところ成功していない。十分な短日処理を行っているため、今後、水耕液の組成を変えるなど、バレイショ野生種のミニチューバー作出条件の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質の組成分析は、当初、細胞膜タンパク質についてのみ行う予定であったが、可溶性タンパク質の分析も並行して行うことにした。可溶性タンパク質の組成分析では、低温馴化過程で耐霜性野生種において特徴的にみられる変動を見出すことができ、現在、その変動の耐霜性への関与を検証する実験を細胞膜タンパク質の分析と共に進めている。 バレイショ野生種のミニチューバーの作出は成功していないが、栽培品種のニシユタカでは、ミニチューバーの作出から保存、浴光育芽、ポットでの生育までの手順を確立した。耐霜性試験などに用いるミニチューバーのサイズを均一にするため、肥大中の塊茎の直径が1.5cm程度になったところで、採取することにした。予備的な実験において、採取日が異なるミニチューバーを同様の方法で保存と浴光育芽したところ、ミニチューバーの植え付けから出芽までの日数や出芽後の初期生育に大きな差異は見られないことが確認できたため、上記の方法でサイズの揃ったミニチューバーを調整することとした。
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今後の研究の推進方策 |
培養植物体を生育させて行う実験については、本年度中に申請の際に計画した実験を全て終わらせる。また、可溶性タンパク質分析により、耐霜性野生種において低温馴化過程で細胞壁のペクチン構成に何らかの変化が起こることが予想されたため、当初の計画には無かった葉の細胞壁に含まれるペクチン定量や電子顕微鏡による細胞壁の構造観察を行う。 バレイショ野生種のミニチューバーの作出は容易に進まない可能性もあるので、長崎県農林技術開発センターで作出されたS. acauleとバレイショ栽培種との雑種系統を用いることも検討している。この系統については、栽培種と野生種の中間程度の耐凍性を持つことが確認されており、現在、長崎県農林技術開発センターから譲渡を受ける手続きを進めている。 平成28年度に行った可溶性タンパク質のプロテオーム解析の結果は、現在、英文論文としてまとめており、本年度中に投稿する。現在行っている細胞膜タンパク質のプロテオーム解析やミニチューバーを用いた実験については、結果がそろい次第、論文の執筆を開始する。
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