研究課題/領域番号 |
16K18651
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河井 崇 京都大学, 農学研究科, 助教 (90721134)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 果樹 / サクラ属 / ウイルスベクター / ジーンサイレンシング / 遺伝子機能評価 / 開花促進 |
研究実績の概要 |
主要果樹種を多く含むバラ科サクラ属果樹では,早くから重要な園芸形質に関する遺伝子研究が精力的に進められてきた.しかしながら,遺伝子の機能を実証する有効な手法が確立されていないため,得られた成果を果樹栽培・育種に十分に活用できていないのが現状である.そこで本研究では,サクラ属果樹においてウイルスベクターを用いた遺伝子機能評価系を確立し,基礎研究で蓄積されたゲノム関連情報を果樹栽培・育種に有効活用することを目的とする.本年度は,果実生産・育種において実用性の高い花成関連遺伝子を対象に,本研究を遂行する上で基礎となる遺伝子機能評価系の開発を行った. シロイヌナズナおよびウメFTの全長配列(AtFT,PmFT),あるいはアンズおよびウメTFL1の部分配列(ParTFL1,PmTFL1)を組み込こんだALSVベクターを作製した.遺伝子銃を用いて各ALSVベクターを発根直後のアーモンドの未熟子葉へ接種し,外来FTの発現誘導あるいは内生TFL1の発現抑制を試みた.RT-PCRにより組換えALSVの感染を確認したところ,数個体の茎頂,葉,茎,根において感染が確認された.しかしながら,いずれのALSVベクター感染個体においても花芽形成などの形態的変化は確認されなかった.各器官における内生の花成関連遺伝子(AP1,FT,SOC1,LFY)の発現量を調査したが,コントロールと差がみられるものはなかった.一方,ParTFL1-ALSVあるいはPmTFL1-ALSV感染個体では,茎頂および根における内生TFL1の発現量が減少する傾向がみられた.これらの結果から,外来FTの発現誘導あるいは内生TFL1の発現抑制だけでは,花成誘導に不十分である可能性が考えられた.しかしながら,全体的に感染率が低く,正確な評価ができていない可能性もある.今後は安定した感染率を得るために接種法の改善に取り組む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,アーモンドを対象にALSVベクターを用いた花成関連遺伝子の発現制御を行い,遺伝子機能評価系の基礎開発および開花促進への応用に取り組んだ.しかしながら,今回用いた接種法では十分数の感染個体が得られず,当初計画していた「花成関連遺伝子の発現解析」および「生育条件の検討」について詳細な調査を行うことができなかった.これらの理由から,やや遅れていると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
今後はALSVの接種効率改善を最優先の課題として研究を進める.具体的には,ウイルスの増幅効率が高いキヌアを介してALSVを増幅し,精製・濃縮した上で接種を行う.in vitroでのウイルス産生についても検討する.複数遺伝子の発現制御が可能な新規ベクター構築は先行して進めることができているため,接種法の改善と並行して新規ベクターの接種を行い,開花促進の有効性を評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
ベクター構築については当初計画より順調に進めることができたため,試薬類・器具類などの消耗品費やその他の解析費を低く抑えることができた.一方,当初計画での想定より接種効率が低く,次世代シークエンサーを用いた花成関連遺伝子の網羅的発現解析など,当年度に計画していた研究内容の一部を次年度以降に実施するよう計画変更したため,本年度の助成金の一部を繰り越した.
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次年度使用額の使用計画 |
「接種法の改善」および「開花促進技術の開発」に必要な試薬類・器具類などの消耗品費,その他解析費に使用する予定である.
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