主要果樹種を多く含むバラ科サクラ属果樹では,早くから重要な園芸形質に関する遺伝子研究が精力的に進められてきた.しかしながら,遺伝子の機能を実証する有効な手法が確立されていないため,得られた成果を果樹栽培・育種に十分に活用できていないのが現状である.そこで本研究では,サクラ属果樹においてウイルスベクターを用いた遺伝子機能評価系を確立し,基礎研究で蓄積されたゲノム関連情報を果樹栽培・育種に有効活用することを目的とする.今年度は,昨年度に引き続き,果実生産・育種において実用性の高い花成関連遺伝子に着目し,安定したウイルスベクターの接種および早期開花誘導を実現するため,(1)in vitro転写系を用いたALSV接種法の検討および(2)ウイルスベクター感染の品種間差異の調査に取り組んだ. (1)pBICAL1およびpBICAL2-NbPDS(ベンサミアーナタバコPDSの部分配列を含む)からin vitro転写によりALSV RNAを合成し,cap構造およびpoly Aを付加した.RT-PCRによりALSV RNAの合成に成功したことを確認した後,ALSV RNA1およびRNA2を等量混合し,遺伝子銃でベンサミアーナタバコの葉に接種した.RT-PCRおよび葉の白化を指標として接種系の有効性を確認したが,cap構造やpoly Aの有無によらず,ALSV感染は確認されなかった.(2)シロイヌナズナFTの全長配列(発現誘導),ウメTFL1およびアンズPDSの部分配列(VIGSによる発現抑制)を有するALSVベクターをモモ‘川中島白桃’,‘おかやま夢白桃’,‘白皇’,‘桃水’の4品種の発根直後の子葉に接種したところ,いずれも高い感染率を示した.しかしながら,上位葉で激しい病徴が発生し,形質変化は観察されなかった.現在,TRVベクターなどALSV以外のウイルスベクターの構築・接種を進めている.
|