研究課題/領域番号 |
16K18652
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
藤田 景子 県立広島大学, 生命環境学部, 助教 (50467726)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ブドウ / 果皮色 / レトロトランスポゾン / 多型解析 |
研究実績の概要 |
ブドウの果皮の色は、赤い色素であるアントシアニンの蓄積量とその種類によって決定し、これらの含有量はMYB様転写因子遺伝子の塩基配列への遺伝子断片の挿入・欠失やMYBハプロタイプの構成に影響されることが報告されている。しかし、四倍体欧米雑種ブドウの‘ピオーネ’(黒色果皮)とその枝変わり品種‘赤いピオーネ(あかり)’(赤色果皮)は両者とも黒色果皮色を示す同じハプロタイプを持ち、また、MYB様転写因子遺伝子のVvMYBA1a、VlMYBA1-2、VlMYBA1-3、VlMYBA2の塩基配列について、‘赤いピオーネ’に特異な変異は見られなかった。さらに、品種識別で用いられるいくつかのSSRマーカーを用いて多型検出を行ったが、多型は検出されなかった。 平成29年度は、まず系統の識別に用いられるレトロトランスポゾンの外向きプライマー16種類を利用したIRAP解析にて、‘ピオーネ’および‘赤いピオーネ’の多型検出を行った。その結果いくつかの多型バンドが検出された。しかし、‘赤いピオーネ’だけでなく他の系統の‘大粒ピオーネ’、‘川合系ピオーネ’も加えて多型解析を行うと、大粒や川合系のほうが多くの多型が存在していることが分かった。次に、県立広島大学福永健二教授らにご提供いただいたMiSeqを利用した四倍体ブドウのレトロトランスポゾンVINE1の挿入位置のデータから、‘ピオーネ’と‘赤いピオーネ’のVINE1の挿入の違いは一カ所しかないことが示唆された。今後、この箇所の配列について詳しく調べていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Azuma et al.(2015)により、果皮の色調は第2染色体上のMYB遺伝子座と第一染色体上のAOMT遺伝子座のそれぞれの遺伝型による違いの影響が大きいと報告されている。前年度、‘赤いピオーネ’のAOMT遺伝子座の解析を予定していたが、レトロトランスポゾンの解析を優先したため検討できなかった。また、‘ピオーネ’および‘赤いピオーネ’の果皮色の違いを観察することはできたが、HPLCを用いたアントシアニン含有量の測定ができていなかった。しかし、両品種のレトロトランスポゾンに注目した多型解析は予定通りに進んでおり、いくつかの多型を検出し、予定にはなかったがMiSeqによるデータを得ることができ、一カ所の挿入位置の違いを確認できた。以上のことから、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はアントシアニンの含有量や種類についての検討を行う。レトロトランスポゾンの外向きプライマーにより検出できた多型から塩基配列を解読して、その付近の遺伝子について検討する。また、平成29年度に解析できなかった、AOMT遺伝子座の差異の検討を行う予定である。しかし、多型が少なかったことから、別のアプローチを行う必要があると考えている。そこで、‘ピオーネ’と‘赤いピオーネ’の着色期間における、アントシアニン生合成酵素遺伝子およびそれらの発現を調節するMYB様転写因子遺伝子をリアルタイムRT-PCRで発現解析し、両品種間の違いを明らかにしていく。また、遺伝子情報が整っていない生物種でも網羅的な遺伝子発現解析ができるSuper-SAGE法 (Serial Analysis of Gene Expression) により、遺伝子発現の違いを見つけていこうと考えている。さらに、MiSeqによってVINE1以外のレトロトランスポゾンの挿入位置を解析できればと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していたブドウ果皮中のアントシアニン含有量の測定ができなかったため、それらの解析で購入予定だったプラスチック器具や試薬、HPLCカラムなどの予算が来年度使用額となった。また、成果発表を行う予定であったが、研究の遅れによりできなかったため、それらが次年度使用となった。 次年度は、当初の予算計画では確保されていなかった平成30年度のアントシアニン分析用の消耗品費として使用する。また、遅れを取り戻すためAOMT遺伝子座の差異の検討、Super-SAGE法やMiSeqの利用などにも予算を確保したい。予定通り進んでいる箇所については、計画に従って助成金の使用を行う。
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