ブドウの果皮の色は、赤い色素であるアントシアニンの蓄積量とその種類によって決定される。アントシアニンの含有量はMYB様転写因子遺伝子に遺伝子断片が挿入されたり、欠失したりすることやMYBハプロタイプの構成に影響されることが報告されている。現在、国内では四倍体欧米雑種ブドウの‘ピオーネ’(黒色果皮)とその枝変わり(突然変異)品種‘赤いピオーネ(あかり)’(赤色果皮)が販売されている。本研究では、果皮色が異なるといわれているこれらを遺伝子レベルで比較し、色が変化した原因を明らかにすることを目的とした。両品種のMYB様転写因子遺伝子の塩基配列を解読したが、配列に違いはなかった。また、MYBハプロタイプの構成も検討したが、黒色果皮色を示すハプロタイプを両者とも持っていることが分かった。品種識別で用いられるいくつかのSSRマーカーを用いて多型検出も行ったが、多型は検出されなかった。系統の識別に用いられるレトロトランスポゾンの外向きプライマーを利用したIRAP解析にて、‘ピオーネ’および‘赤いピオーネ’のいくつかの多型バンドを検出した。レトロトランスポゾンの挿入の有無が果皮色に影響を及ぼした可能性から、県立広島大学福永健二教授らがMiSeqを利用して四倍体ブドウのレトロトランスポゾンVINE1及びGret1の挿入位置を解析したデータから、‘ピオーネ’と‘赤いピオーネ’を比較した。挿入の違いはそれぞれ数か所あった。しかし、この違いからプライマーを設計したが、‘ピオーネ’と‘赤いピオーネ’とで特異的なバンドを検出できなかった。以上の結果からは、‘ピオーネ’と‘赤いピオーネ’とで果皮色の違いを生じる原因を明らかにできなかったが、今後、VINE1やGret1以外のレトロトランスポゾンの挿入の有無の解析や、また、果皮着色期のRNA発現のRNA-seq解析よる原因遺伝子の発見を行う予定である。
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