研究課題
芳香を有する揮発性成分は、園芸作物の香り形成や食味決定に深く関わっている。特に果実の場合、“香り”は品質を左右する重要なファクターである。香気成分は配糖体化されることで非揮発性・無香性となり、細胞内に蓄えられる。しかし、グリコシダーゼにより加水分解されると再び揮散するようになる。本研究では、果実における香気成分の貯蔵メカニズムを解明することを目的とし、トマト果実における香気成分の配糖体化に関わるグリコシルトランスフェラーゼ (UGT)の同定および機能解析を行っている。本年度は、前年度に実施した組換えUGTタンパク質を用いたスクリーニングにおいて、香気成分に対して活性を有するものを選定し、詳細に解析を進めた。未成熟トマト果実において強く発現するUGTは、フェノール系香気成分(グアイアコール、オイゲノールなど)に対する活性を示した。これらのUGTは比較的基質特異性が高く、フェノール骨格を持つ香気成分を限定的に配糖体化した。一方、低温処理した果実において高発現を示すUGTは、フェニルエタノールやヘキサノールをはじめ、広範囲のアルコール性香気成分に対する活性を有していた。また、これらのUGT遺伝子を過剰発現させた形質転換トマトを作出した。現在、果実内の配糖体型香気成分量および果実から揮散される香気成分量を分析している。一方、配糖体化に関わるUGTを同定するための別のアプローチとして、配糖体量の多い品種群と少ない品種群との間で発現量の異なる遺伝子を網羅的に探索する戦略を検討している。国内外の様々なトマト品種の配糖体量を測定したところ、平成28年度と29年度とでは異なる結果が得られた。その要因として、年次ごとの気候変動が考えられた。そのため、次年度も同様の分析を行い、配糖体量の多い(または少ない)品種を特定する必要がある。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は研究実施計画に掲げた通り、前年度のスクリーニングにより同定したUGTの機能解析を実施した。各UGTの基質特異性および遺伝子発現様式を調べるとともに、組換えトマトを作出し、分析を行っている状況であり、概ね順調に進行している。配糖体量の品種間差異については、初年度と2年目とでは安定した結果が得られず、3年目も実施する予定であるが、結果が揃い次第RNA sequencingによる解析を実施する。
次年度も基本的には研究実施計画通りに実験を遂行する。スクリーニングにより同定されたUGTの酵素学的な特性を結論づけるとともに、組換えトマト個体における果実の形質評価を行う。組換え個体における配糖体量およびアグリコン量(非配糖体量)の測定や、果実を機械的に破砕した場合のアグリコンの放出量の測定などを予定している。しかし、上記スクリーニングでは、組換えタンパク質が不溶化して供試できなかったUGTもあり、香気成分配糖体化に関わるUGTを網羅できていない可能性がある。そこで、引き続き配糖体量の品種間差異を見出し、RNA sequencingによる解析を実施する。また、異なるアプローチとして、カラムクロマトグラフィーによりトマト果実に含まれるUGTタンパク質の精製も同時に進めていく。最終年度は、これらの研究成果の取りまとめを行う。
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The Horticulture Journal
巻: - ページ: -
https://doi.org/10.2503/hortj.OKD-142
巻: 87 ページ: 288-296
https://doi.org/10.2503/hortj.OKD-133