芳香を有する揮発性成分は、園芸作物の香り形成や食味決定に深く関わっている。特に果実の場合、“香り”は品質を左右する重要なファクターである。香気成分は配糖体化されることで非揮発性、つまり無香性となり、細胞内に蓄えられる。しかし、グリコシダーゼにより加水分解されると再び揮散するようになる。したがって、配糖体型は香りを供給するためのプールであると考えられる。本研究では、香気成分の貯蔵メカニズムを解明することを目的とし、トマト果実における香気成分の配糖体化に関わるグリコシルトランスフェラーゼ(UGT)の同定および機能解析を行った。 本年度は、前年度までに実施した組換えタンパク質を用いたスクリーニングにより同定されたUGTに着目し、詳細な解析を進めた。未成熟トマト果実において強く発現するUGTは、試験管内の実験において、スモーキーフレーバーを醸すグアイアコールや、スパイシーな芳香を持つオイゲノールを配糖体化した。また、低温貯蔵した成熟トマト果実において高発現するUGTは、フローラルな香りを持つフェニルエタノールやグリーン香を持つヘキサノールをはじめ、広範囲のアルコール性香気成分を配糖体化した。低温貯蔵トマトでは、揮発性の香気成分量が著しく減少するが、配糖体型の含有量は一定であることから、このUGTが低温条件において香気成分量を維持する役割を果たしていることが推察された。しかし、配糖体化活性を有するこれらのUGTをトマトで過剰発現させたところ、配糖体量の顕著な増加は見られなかった。揮発型と配糖体型は可逆的な変換であるため、UGTの過剰発現の効果が、細胞内において両者のバランスを保つための補償作用により打ち消されたためと考えられる。現在は、UGTの発現抑制個体およびゲノム編集によるノックアウト個体の作出および分析を行い、配糖体化反応を抑えた場合の香気成分組成への影響を調べている。
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