本研究は、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を用いてリンドウの主要色素ゲンチオデルフィン(GD)の修飾酵素遺伝子の変異系統を作出し、リンドウの青い花色に真に寄与するコピグメント分子を生体内で明らかにすることを目的に推進している。平成28年度は、様々なアントシアニン生合成関連遺伝子の変異系統を作出し、選抜個体を閉鎖系温室に馴化した。平成29年度は、F3’5’H、DFR、5GT、3’GT、5/3’AT変異系統等で開花個体が得られ、それぞれ鮮やかなピンク色、白色、赤紫色、ピンク色、淡い藤色等の花色表現型を確認した。修飾酵素遺伝子の変異系統、5gt、3’gt、5/3’atの花弁の色素抽出物をHPLCで分析したところ、それぞれデルフィニジン(Del)-3-グルコシド(G)、Del-3G-5-カフェオイルグルコシド、Del-3G-5G-3’Gを主に蓄積し、いずれの系統もGDの蓄積は認められなかった。分光測色計を用いて生花弁背軸面の吸収スペクトルを10nm間隔で測定したところ、正常型は580nmと620nmで2つの吸収極大を示すのに対し、5gt、3’gt、5/3’atはそれぞれ570nm、540nm、580nmで正常型よりも低い1つの吸収極大を示した。各変異系統の生花弁背軸面の明度は正常型と比較して高い値を、彩度は低い値を示した。ここまでの結果から、Del-5位への糖・カフェ酸の結合、あるいはDel-3、5、3’位への糖の結合だけではリンドウ花弁の青の発色に至らないが、一方で、Del-5、3’位双方、あるいは少なくともDel-3’位の配糖化に続くカフェ酸の結合は分子内コピグメンテーションを誘導し、それによりリンドウ花弁はより青く・濃く・鮮やかに発色していると考えられた。このように、変異系統の生花弁を解析したことで、リンドウ花弁生体内の発色に関する直接的な知見が得られた。
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