研究課題
きのこから放出される揮発性物質が植物病害抵抗性の誘導活性を示すかについてこれまで全く明らかにされていない。そのため、本研究では多種多様なきのこ由来揮発性物質の中から植物病害抵抗性誘導活性を示す物質を明らかにすることを目的に行った。昨年度、9属37種50菌株のきのこ菌株を液体培地で培養し、培地中に放出される揮発性物質を2種類の組み換えタバコ植物(抵抗性遺伝子PR1aおよびPI-IIプロモーターとGUSレポーター遺伝子との融合遺伝子をそれぞれ導入したタバコ植物)に処理することにより評価した。その結果、PR1a導入タバコに対して誘導活性を示したきのこ抽出液は4種類、PI-II導入タバコに対して誘導活性を示したきのこ抽出液は3種類であった。また、これまでの研究において植物病原菌に対して抗菌活性を持つきのこ由来揮発性物質イソベレラロールおよび1-phenyl-3-pentanoneが病害抵抗性の誘導活性を示すかについても同様の方法で調べた結果、両物質とも顕著な誘導活性は認められなかった。きのこ由来揮発性物質を新たな植物抵抗性誘導剤として利用するには、安全性が重視されることが予想されるため、食用きのこが放出する揮発性物質に着目して研究を進めた。抵抗性誘導活性を示したきのこ7種類のうち3種類が食用きのこであった。これら3種のきのこが放出する揮発性物質の抗菌活性について調べた結果、キャベツ黒すす病菌の胞子発芽を顕著に抑制することが明らかとなった。現在、抵抗性誘導活性が認められた食用きのこ3種類において大量の液体培地で培養し、得られた培養ろ液を有機溶媒抽出し、シリカゲルクロマトグラフィーによる分画を行うことで抵抗性誘導物質の単離を試みている。きのこ廃菌床抽出液がイネの防御反応を誘導することが明らかとなり、きのこ廃菌床由来揮発性物質による抵抗性誘導活性についての検討も行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、抵抗性誘導活性の認められたきのこの培養ろ液の作製および抽出を行うことができ、おおむね計画通りに実施できている。今後、抵抗性誘導活性物質の単離および同定に繋げていくことができると考えている。
選抜した食用きのこ3種の粗揮発性物質をタバコ野生型に処理し、抵抗性関連遺伝子の発現をリアルタイムPCRで解析することにより、抵抗性誘導経路の解析を行っていく予定である。また、今年度も引き続き、選抜食用きのこ培養ろ液からの抵抗性誘導物質の単離および同定を行っていく。
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Journal of Pesticide Science
巻: 44 ページ: 1-8