研究課題
世界的な難防除害虫であるナミハダニ(Tetranychus urticae)を対象とし,本種の新規防除標的遺伝子の探索および新規防除法の開発の基盤技術として注目されているdsRNAの経口投与によるRNA干渉(RNAi)系の構築を試みた.これまでに,界面活性剤を含んだ色素溶液に浸漬したナミハダニの消化管内から色素が確認された.また,界面活性剤を含んだ色素溶液を葉面に塗布し,その葉を摂食させたナミハダニの消化管内からも色素が確認された.それぞれを浸漬法および塗布法とし,これら手法を用いて,dsRNAの経口投与およびRNAiの誘導を試みた.標的遺伝子は,これまでに数種の昆虫でRNAiによる致死効果が確認されている液胞型ATPアーゼ(V-ATPase)とした.その結果,浸漬法および塗布法いずれの手法でも,RNAiによる致死,産卵抑制およびV-ATPase遺伝子の発現抑制および体色の黒化(おそらく黒い糞球の蓄積)が確認された.興味深いことに,体色が黒化した個体の生存率,産卵数およびV-ATPase遺伝子の発現量は,体色が黒化しなかった個体のそれらと比較して,有意に低かった.V-ATPaseはH+ポンプとして機能し,主に液胞内の酸性維持に寄与している.ハダニ類の消化管内には,腸壁の上皮から内腔へと離脱し,大型の液胞を有する浮遊細胞(食細胞)がある.そして,この食細胞は,消化,吸収および排出等の役割を担っている.そのため,RNAiによってこれら食細胞の機能が阻害され,体色の黒化が誘導された可能性がある.
1: 当初の計画以上に進展している
ナミハダニへの生体外物質の経口投与について,本研究課題の計画にある1)浸漬法および2)塗布法に加え,3)葉片に浸潤させて摂食させる浸潤法および4)人工餌に混ぜて摂食させる人工餌法の計4種類の手法を開発し,それらのプロトコールを論文としてまとめ投稿した.さらに,dsRNAの経口投与によるRNAi実験では,上記4種類の手法に加え,5)ナミハダニのdsRNAを発現させたシロイヌナズナを摂食させるトランスジェニック植物法を用いて,それぞれのRNAi効果を検証し,この結果も論文としてまとめ投稿した.以上より,本研究課題は,当初の計画以上に進展している.
現在は,上記手法の中で,生体外物質(色素)の経口投与効率ならびにRNAi効果が最も高かった浸漬法および塗布法の最適化を検討している.具体的には,併用する界面活性剤の種類,気温および飽差といった環境条件,リポフェクション法との併用,ならびに浸漬法の場合は,減圧湿潤法およびエレクトロポレーション法との併用など,各種手法の組み合わせによる最適化を目指す.
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すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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