研究課題/領域番号 |
16K18665
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加藤 広海 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90727265)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 土壌 / ノトバイオロジー / Betaproteobacteria / 細菌叢遷移 |
研究実績の概要 |
本研究では、異なる2種類の土壌の生物学的因子(微生物群集)と物理・化学的因子(移植先の無菌土壌)を段階的に混合することで、2種土壌の間に連続的に位置する土壌環境を調製し、移植実験を実施する。本研究を進めるにあたり,最も重要かつ基本的な要素である無菌土壌の調製と保存性について,数種類の細菌種を用いて検証を行った.その結果,γ線照射による滅菌処理から時間が経過した無菌土壌ほど,接種した細菌の生育速度が遅くなる現象が確認された.これは,土壌が無菌状態を保っていても何らかの化学成分が質的・量的に変化していく可能性を示している.よって,2種類の土壌間における微生物移植実験を行う際には,無菌処理の時期をそろえて実施する必要があることがわかった. また無菌土壌に単独接種した細菌の生育速度を様々な細菌種で比較した結果,Betaproteobacteriaの一部の細菌種は他のグループの細菌種と比較して良好な生育を示した.さらにこれら細菌は,難培養性細菌を含む他グループの細菌種の土壌での生育を促進する効果が認めれられた.先行実験(土壌微生物の戻し移植実験)においても,Betaproteobacteriaは菌叢遷移の初期優占グループの一つであり,その後の菌叢遷移に大きな影響を及ぼすグループと予想されている.よって,本分類群の土壌での単独生育および他グループ細菌を促進する関係性は,土壌ノトバイオロジーを研究する際に菌叢遷移の最小単位のモデルケースとなる可能性を持っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
土壌の移植実験において,微生物群集の移植先である土壌の無菌性と物理的・化学的安定性(保存性)は,最も重要な前提条件である.初年度において,γ線滅菌処理を施した無菌土壌では,無菌性よりも先に保存性において限界を迎えることが示された.本研究では採取時期の異なる複数の土壌を使用することから,無菌土壌の保存性について詳細なデータを取ることが優先された.また保存に対する一定の解決方法が得られた時期は冬季に入っており,霜が降りやすいため,土壌サンプリングを避けざるを得なかった.結果,初年度に開始する予定であった2種の土壌間の移植実験の進捗が遅れることになった. しかしながら,初年度中にγ線滅菌処理におけるサンプル容量を再度見直すことにより,無菌操作性が高く,かつ保存性も比較的高い条件を見出すことに成功したことは今後の研究への大きなアドバンテージとなった.またこの期間中に,比較に最も適した2種の土壌を,地理的・土性的条件から選定した.結果,先行研究で用いた褐色森林土質の試験農場の土壌,関東圏の黒ボク土質の試験農場の土壌を用いること決定し,春季での土壌採取実施の許諾関連作業を済ませた.
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今後の研究の推進方策 |
関東地域の試験農場にて,黒ボク土質の畑土壌採取を実施し,細菌群集の抽出,γ線滅菌処理による無菌土壌の調製を行う.褐色森林土質の畑土壌由来の細菌群集,および無菌土壌(同時期にγ線滅菌処理)と段階的に混合することで,2種の土壌間を連続的につなぐ生物学的因子と物理・化学的因子を創出する.これら微生物群集と無菌土壌の総当たり形式の移植実験を実施し,経時的な土壌サンプリングおよび次世代シーケンサーを用いた16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンスを実施する.また調製した無菌土壌の化学分析を実施する. これら全サンプルの菌叢組成について、多変量解析、共起パターン、ネットワーク解析、菌叢の変動係数、CCM解析、土壌成分との相関解析などを実施することで,菌叢変動の線形性や、菌叢形成プロセスに寄与する物理・化学的および生物学的因子を特定する。当初より移植実験開始時期が遅れているため,これら菌叢データの多変量解析等については移植半年後までのデータを用いて実施する.先行研究により,細菌叢は移植後半年間で大きな変動を終え,一定の菌叢組成へと収束する傾向があることが判明している.この傾向を利用して,移植後の細菌叢の長期モニタリングと,土壌成分との多変量解析を並行して実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況に遅れが生じたため,実験に必要な分析および試薬(使用期限が数ヶ月)の購入が年度内にはできなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に遅れていた分析および解析を実施するので,その費用として使用する.
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