研究実績の概要 |
これまでに、シロイヌナズナ由来の転写因子遺伝子であるMYB59から、エキソン構造の調節により2種類のORF(MYB59α, MYB59β)が生成され、低カリウム(K)条件下では根におけるMYB59αの存在量が増加し、MYB59βの存在量が減少することを見出してきた。昨年度には、MYB59の欠損変異体においてMYB59αまたはMYB59βを発現させた形質転換体を用いた実験から、低Kで増加するMYB59αは低カリウム耐性に必要であり、MYB59βは低K耐性には必要ではないことを示した。今年度、これらの形質転換体を用いた解析から、MYB59αはK輸送体遺伝子NPF7.3の転写活性を有し、一方MYB59βはNPF7.3の転写活性を持たないことが示された。これらのことから、低K条件に応答してMYB59のエキソン構造が変化することでMYB59αの存在量が増加し、MYB59αによりNPF7.3が転写されることで、地上部にKが供給されることが明らかとなった。 MYB59αの存在量は低Kで増加する。しかしMYB59αとMYB59βのトータルの転写量は低K条件に応答して低下することがわかった。またNPF7.3とともに地上部へのK輸送を担うSKORの転写量も低K条件下で低下した。一方、根にKを吸収する輸送体遺伝子や根にKを集積するための遺伝子の発現は低K条件に応答して有意に増加した。これらの結果は、低K条件においては地上部へのK輸送に関わるMYB59やSKORの転写を抑制し、根にKを吸収あるいは集積する遺伝子の転写を促進することで、根にKを留める応答が転写レベルで起きていることが示唆された。そして、MYB59は転写レベルでは抑制されるもののエキソン構造調節によりMYB59αの存在量は増加するため、NPF7.3の発現が誘導され、地上部へのK供給不足が起きない仕組みになっていると考えられた。
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