研究課題/領域番号 |
16K18668
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
齋藤 彰宏 東京農業大学, 応用生物科学部, 助教 (10610355)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オートファジー / 重金属過剰 / 酸化ストレス / ミトコンドリア / マイトファジー / クロロファジー |
研究実績の概要 |
タバコBY-2培養細胞では、ニッケル(Ni)処理条件下でNi2+を高集積する酸性小胞様区画が液胞膜の周縁に形成される。WortmanninやE64dなどのオート-ファジー阻害剤は、このNi誘導性の酸性小胞様区画(NIV)の形成に影響を与えることから、NIVは酸性の自食胞、すなわちオートリソソームであることが示唆された。 ショ糖密度勾配超遠心法で精製した液胞膜とオートリソソームを含む画分に含まれるタンパク質をnano-LC-MS/MSで解析した結果、NIVがミトコンドリアタンパク質を内包することが明らかになった。 そこで、透過型電子顕微鏡解析を行ったところ、Ni処理した細胞内の一部のミトコンドリアが、実際に二重膜のオートファゴソーム内に隔離される様子が観察された。さらに、ミトコンドリアに赤色蛍光タンパク質(RFP)を過剰発現させた細胞株では、NIVにRFPの蛍光が共局在しており、ミトコンドリアがNIVに取り込まれていることを生細胞でも確認した。ニッケル過剰下でのオートファジーの役割を明らかにするためにRNAi法や阻害剤処理でオートファジーを抑制したところ、これらの細胞ではNi耐性能が顕著に低下するとともに、ミトコンドリアの異常凝集体が生じた。 以上を踏まえ、我々はNiを過剰に集積した異常ミトコンドリアをオートファジーで除去することが植物細胞のNi毒性の軽減に重要であることが示された。 今後、他の植物細胞や異なる重金属処理をした場合のオートファジーについても同様に解析を進めるとともに、このミトコンドリア選択的に起こるオートファジーの分子装置がどのように構成されるのかについても解明を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
透過型電子顕微鏡解析を行ったところ、Ni処理した細胞内の一部のミトコンドリアが、実際に二重膜のオートファゴソーム内に隔離される様子が観察された。そこで、共焦点顕微鏡下でオートファジーを可視化できる複数のタバコ細胞株を樹立した。ミトコンドリアに赤色蛍光タンパク質(RFP)を過剰発現させた細胞株では、NIVにRFPの蛍光が共局在しており、ミトコンドリアがNIVに取り込まれていることを生細胞でも確認した。 さらに、ミトコンドリアをYFPやRFPで標識した株に、オートリソソームの液胞への融合を阻害するE64d処理とニッケルを染色する蛍光試薬を添加して観察を行った結果、ニッケルを高濃度に集積した異常ミトコンドリアの凝集体が確認された。 同様に、液胞内の加水分解酵素を阻害するコンカナマイシンA処理では、多量のミトコンドリアがニッケル処理区でのみ液胞内に浮遊している様子をとらえることに生細胞で成功した。これらの解析から、ニッケルがミトコンドリアに高集積し、損傷を与えた結果、ミトコンドリア選択的なオート-ファジーが誘導されることが証明できた。 また、シロイヌナズナ培養細胞ではカドミウム処理により葉緑体のオートファジーが誘導されることを新たに発見した。このオートファジー機構は、カドミウムを取込んだ葉緑体の局所部位が液胞に運ばれており、どのように葉緑体側でカドミウムを認識し、液胞へと輩出しているのか今後明らかにする必要がある。 上記の条件でタバコ細胞とシロイヌナズナ細胞、さらに植物体でRNAseq解析を実施した。その結果、これらオルガネラ選択的なオートファジーに関与しうる複数の候補遺伝子(ATG遺伝子、ユビキチン連結酵素群など)が見つかった。これらの遺伝子が実際にオートファジーに関与するか引き続き、解析を進める。
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今後の研究の推進方策 |
タバコやシロイヌナズナの培養細胞で明らかになった重金属誘導性のオルガネラ選択的オートファジーについて学会での発表を行っているが、引き続き論文での発表を進める。 また、この現象に関与する因子としてRNAseq解析を行ったところ、重金属処理で強く誘導される複数の候補が見つかっており、これらの機能解析を行う。併せて、ATG8やJoka2がオルガネラ選択的なオートファジーに関与することが強く示唆されたことから、これらのタンパク質に対する共免疫沈殿法を用いて、相互作用因子の特定を進める。 さらに、タバコ細胞では多数のユビキチンリガーゼが高発現しており、ユビキチン化によってミトコンドリアがオートファジーの標的として認識されている可能性が強く示唆された。このため、対照細胞とニッケル処理細胞のそれぞれでユビキチン化タンパク質のプロテオーム解析を行い、ユビキチン化の関与についても検討を行っている。 また、ここまで主に培養細胞で行ってきた研究成果を植物体全体で調査も進める。タバコ植物、シロイヌナズナ植物、それぞれの解析系の構築を進めており、個体レベルでこの重金属誘導性オルガネラ選択的オートファジーの生理学的な意義を解明したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
オルガネラ選択的オートファジーに関与する遺伝子、タンパク質の同定を勧めているが、タンパク質解析についてはまだ試料の調整法を検討しており、受託解析に必要となる実験は昨年度中に完了しなかった。しかし、RNAseq解析で多量のデータが得られたこともあり、ここまでに有望な候補を見つけている。H30年度はこれらの有望な因子の解析をするために、H29年度の予算を繰り越してH30年度に使わせていただきたい。
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