研究課題/領域番号 |
16K18672
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
萩原 大祐 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20612203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Aspergillus fumigatus / 胞子 / トランスクリプトーム / 二次代謝 |
研究実績の概要 |
糸状菌の分生子(無性胞子)は、多様な環境中で生存することを目的とした頑健な環境応答機構を備えている。特に高温や乾燥に耐えるために、胞子内に高濃度の適合溶質を蓄積することが知られている。前年度に実施した、数種のAspergillus属菌を対象とした休眠胞子のトランスクリプトーム解析では、catalaseなどストレス耐性遺伝子の転写物が著量蓄積していることが示された。また休眠から発芽への移行の際に、劇的に発現上昇するCal-family遺伝子を見出し、発芽プロセスの重要な機能を有していると推測された。 本年度は、異なる環境下で着生した休眠胞子の特性の違いを明らかにするために、異なる培養温度で着生した胞子内のトランスクリプトーム比較解析を行った。25, 37, 45℃でA. fumigatusをPDAプレート培養し、着生した胞子をプレート上から回収した。25℃培養から回収した胞子は、他の条件の胞子に比べて濃い灰緑色を呈し、メラニンが高度に蓄積していることが示唆された。実際、複数のメラニン生合成遺伝子の発現が上昇しており、25℃で得られる胞子はUV照射ストレスに耐性を示した。続いて、異なる温度条件で培養し回収された休眠胞子からRNAを抽出し、比較トランスクリプトーム解析を行った。その結果、25℃で得られた胞子において、13個の遺伝子からなる二次代謝遺伝子クラスターが高発現していることが明らかになった。本遺伝子クラスターのPKS遺伝子破壊株を作製し、休眠胞子の酢酸エチル抽出物において消失するピークを単離した。NMRによる構造解析を行った結果、抗菌活性や抗原虫活性が報告されているTrypacidinと同定された。この結果から、A. fumgiatusの休眠胞子にTrypacidinが培養温度依存的に蓄積することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度中に所属の異動があり、新しく研究体制を整えるのに時間を要したため、予定していた全ての実験を進めることができなかった。しかし、それまでに蓄積された解析データを論文報告できたことから、一定の進捗を得ていると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
胞子の休眠から発芽への移行を制御すると推測されるAtfA転写因子およびPKA因子について解析を進める。特にこれら因子の遺伝子破壊株を作製して、発芽プロセスの顕微鏡的観察と分子制御機構を解析する。AtfAとPKA因子の相互作用の有無を明らかにすることで、糸状菌胞子の休眠機構の分子機構を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に所属の異動があり、実験を抑えざるを得ない状況が生じたため、それに関連して実験に使用する消耗品や試薬の購入金額が少なくなった。次年度は、遅れを取り戻すためにより多くの実験をこなす予定でおり、そのための消耗品や試薬等の購入に充てることを考えている。
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