放線菌 Streptomyces griseus は、転写制御因子 AdpA によって抗生物質等の有用物質生産に必要な遺伝子群の発現をコントロールしている。AdpAは10塩基長の曖昧な配列パターンを認識しゲノムDNAに結合することが知られているが、二量体で機能するときの認識機構については未解明な部分が多い。本研究ではAdpA結合部位とその周辺の塩基配列に着目し、AdpAの認識機構を明らかにすることを目的とした。 結果1)10塩基長の認識配列の後半に見られる特徴に絞って分析を進めた結果、base step(DNAの連続した2塩基対のこと)が形成しうるコンホメーション(Travers 2012に詳しくまとめられている)によって、DNAとAdpAの結合力を説明することができた。塩基配列から結合力(ゲルシフトアッセイで示されたpIC50の値を用いた)を予測したときの予測精度は、相関係数R^2 = 0.97であり、研究者が期待していた精度を大きく上回った。この予測モデルに基づくと、10塩基長の認識配列が形成するDNAの高次構造の特徴は次の通りである:後半部分は湾曲した構造が維持される傾向があり、前半と後半の境界で構造変化を起こしやすい傾向がある。 結果2)ゲノム配列上の約300箇所の推定結合部位(100~200 bp程度、Higoら2013より)を対象とし、各部位に含まれるAdpA認識配列の候補を列挙した。候補を推定するにあたり、既知の2要素(10塩基長の前半に存在する塩基配列の特徴 および 後半に存在する塩基配列の特徴)を条件とした。これらの候補のうちAdpAとの結合が実験的に示されているものを対象として、結果1で明らかにした特徴も考慮した上で認識配列の特徴を抽出することを試みたが、新たな特徴を見出すことはできなかった。
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