研究課題/領域番号 |
16K18675
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
河野 祐介 筑波大学, 高細精医療イノベーション研究コア, 研究員 (40558029)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 硫黄代謝 / 大腸菌 / ペリプラズム / チオ硫酸イオン |
研究実績の概要 |
我々の研究グループでは、酸化的環境のペリプラズムに供給されるシステインによる還元反応、YdjNがスルホシステインインポーターであることを発見している。一方、ペリプラズムに局在するチオ硫酸:硫黄転移酵素PspEは、チオ硫酸イオンと反応し亜硫酸イオンを放出しつつそのシステイン残基がポリスルフィド化されることが近年報告された。よって、これらの3つの硫黄代謝反応が連動し、結果として生じるPspEのポリスルフィドが、これまでに知られていない「硫黄分子の貯蔵システム」ではないかと仮説を立てた。本研究では、各反応を分子・遺伝子レベルで解明し、PspEポリスルフィド化機構や、未知なる「硫黄貯蔵物質」としての生理的機能を明らかにする。これにより、遅れている硫黄代謝の統合的な理解を加速させる。 まず、PspEに生じるポリスルフィド化機構を理解するために、PspEを発現・精製し、in vitro系で生化学的な特性解析を行う。平成28年度には、IPTG誘導可能な大腸菌発現系プラスミドでPspE-Hisを構築した。平成29年度には、その発現・精製タンパク質の生化学的な活性(基質;無機硫黄種)を調べた。しかし、発現量が低く、ゆえに精製度も低い傾向があり、PspEのポリスルフィド化を示す明快なデータは得られていない。 一方で、LC-MSによる硫黄分子種解析系の改良を推進した。例として、硫黄同化系路の中間体として重要なPAPSについて、そのリン酸基などの影響により、現行の硫黄メタボローム法での分離・溶出が困難であったが、移動相やカラム種などの条件を検討することで、その検出系を構築した。 また、PspEと同タンパク質ファミリーの「チオ硫酸:硫黄転移酵素」であるGlpEに関して、その生理的機能と、システイン発酵生産への応用光学的な有用性を示した論文を投稿し、採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度までに計画していた、PspEに関するin vitroの生化学解析の完了と、in vivoにおける解析の着手(硫黄メタボローム解析)に対して、現状の研究進捗は遅れている。本質的な原因は、PspEタンパク質の発現(様式)にあると考えられる。他のタンパク質では、同様の発現様式で高発現した実績があるので、PspEとは相性が悪いことが考えられる。一方で、in vivo解析で適用する硫黄メタボローム解析系の構築に関しては、検出代謝物種の追加等を行い網羅性を高めており、更に独自性の高い最新の分析系として発展させることができ、順調な進捗と言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、現在行っているPspE-Hisタンパク質のin vitroの生化学的手法による特性解析を早期に完了する。この目的で、現在、研究遂行上の課題となっているPspEの発現について、適した発現様式への方向修正を含めて対応方策をとる。また、PspEのin vivo解析により、そのタンパク質貯蔵に関する生理機能への関与への結論を得る。また、その分子メカニズムについて明らかにする。さらに、PspEの硫黄同化やシステイン生産における機能や有用性についても調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】 実験計画に対して、一部の研究項目で進捗にやや遅れがあり、その分の実験に相当する次年度使用額が生じた。 【使用計画】 次年度には、別記の対応策により本年度の研究進捗の遅れを取り戻し、最終的に計画に則った実験を遂行する。この目的のため、上記で生じた使用額を執行する。具体的には、PspEタンパク質の発現系構築実験を効率よく進めるための試薬類、ディスポ機器類に使用する予定である。
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