研究実績の概要 |
まず、PspEに生じるポリスルフィド化機構を理解するために、PspEを発現・精製し、in vitro系で生化学的な特性解析を遂行した。発現系プラスミドを用い、PspE-Hisを発現・精製し、タンパク質の生化学的な活性(基質;無機硫黄種)を調べた。しかし、発現量が低く、ゆえに精製度も低い傾向があり、PspEのポリスルフィド化を示す明快なデータは得ることが難しかった。一方で、研究期間の期限が迫っていることを鑑み、本課題で注目しているpspEの生理機能について、硫黄代謝全般における視点から多角的に明らかにすることを考えた。 近年、大腸菌における有用硫黄化合物の生産技術が進んでいる一方で、その発酵生産時に毒性の硫化水素が発生する問題がある。この現象は、硫黄の「同化」に関わると仮説し、大腸菌において、無機培地における単一硫黄源での硫化水素発生を調べた。すると、硫黄源をチオ硫酸塩とすると硫化水素が発生するが、硫酸塩とすると発生しないことが判明し、さらに、転写因子CRPが関わることを明らかにした(Tanaka, kawano, ohtsu et al, J. Gen. Appl. Microbiol.,2019)。そして、この硫化水素発生は、グルコース枯渇が、引き金となっていることを明らかにした。これに対し、pspEは、硫化水素発生後に転写量が増加していた(リアルタイムPCRによる)。一方で、Δcrpでは、この増加がほぼ生じなかった。そこでpspEがこの硫化水素発生に関わると考え、pspE破壊株で硫化水素発生を調べたところ、予想に反して、野生株とほぼ同等の硫化水素生成が見られた。よって、他の未知の因子との複合的な機能として、crpに依存する硫化水素生成に関わっている可能性が高いことが判明した。
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