研究課題
前年度までに、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて、栄養シグナル伝達の鍵を握るTORシグナル伝達経路とアルコール発酵力との関係を明らかにしてきた。高い発酵力を有する清酒酵母ではTORC1(TORシグナル伝達経路の中心的な因子)の活性が高いこと、また、TORC1自身や上流因子の改変に応じて発酵力も変化することから、TORシグナルが発酵力のマスターレギュレーターとしての機能を有することを示した。TORC1の下流経路として、①炭素代謝の切替えに関与するGreatwallファミリープロテインキナーゼRim15pと、②アミノ酸ホメオスタシス関連因子(転写因子、プロテインキナーゼ)に着目した。このうち、①では、Rim15pが発酵の「ブレーキ」として働く最も主要な因子であること、さらに、その下流に位置するプロテインホスファターゼPP2A(B55δ)が発酵の「エンジン」として働くことを明らかにした。特に、PP2A(B55δ)は、メタボローム解析の結果から、解糖系・アルコール発酵における鍵酵素であるフォスフォフルクトキナーゼを正に制御していることを示唆する新たなデータが得られた。一方、②では、細胞内アミノ酸含量を高める因子が発酵の「ブレーキ」として働くことが見出され、Rim15p経路とは独立した、炭素-窒素クロストーク代謝調節を介した発酵力調節経路であることが示された。以上の結果から、真核生物に共通な解糖系・アルコール発酵の調節メカニズムの全体像を示すに至った。さらに、清酒酵母や焼酎酵母において、高発酵力の原因と考えられるTORシグナル伝達経路上の変異を複数同定したことに加え、焼酎酵母やパン酵母におけるRim15p欠損の炭素代謝への影響についても解析を行った。これらの研究成果を通して、産業用酵母菌株の育種に有用な「発酵デザイン技術」につながることが期待される。
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