研究実績の概要 |
クロラムフェニコール耐性遺伝子を用いて作製したトランスポゾン(Tn)遺伝子を使用して、E. faecalis(W11株)のTn変異株を約3,000株作製した。その中で、野生株と比較してグリセロール資化性が著しく低下、あるいは消失したTn変異株を22株獲得し、そのうちの19株においてTn挿入部位の決定に成功した。最も多く変異が重複した遺伝子は、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PpdK, EC:2.7.9.1)およびフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(Fbp, EC:3.1.3.11)で、これらは糖新生を担う酵素である。その他には、NADHペルオキシダーゼ、DNA合成とその修復酵素、細胞壁合成酵素、グリコシドヒドロラーゼ、トランスポーターなどが検出された。一方で、得られたTn変異株の変異部位にはグリセロール代謝の制御を担う(転写)制御因子をコードしていると考えられる遺伝子は見出せなかった。 上記のPpdKまたはFbpの遺伝子変異株では、グルコース、フルクトース、グルコン酸、リボースに対する資化性に低下は認められなかったが、ピルビン酸に対してはグリセロールと同様にその資化性に著しい低下が認められた。このグリセロールおよびピルビン酸資化性の低下は、ヌクレオシドの添加では回復せず、いずれかのリボヌクレオシドをわずかに添加することで回復した。これらから、W11株ではグリセロールが解糖系を経てピルビン酸に変換された後、再び解糖系を逆流してペントース・リン酸経路を介してDNA合成のためのリボースを供給していることが明らかになった。なお、PpdKおよびFbp遺伝子の発現は、グルコースよりもグリセロールを代謝しているW11株で明らかに向上していた。よって、これらの酵素遺伝子の発現は、グリセロールあるいはその代謝で生じる物質・細胞内環境に応答していることが示唆された。
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