研究を開始した当初、好熱菌Ureibacillus thermosphaericusのリグニン分解能を利用して、菌体内に外来遺伝子発現システムを新たに構築することを検討していた。U. thermosphaericusのリグニン分解能を詳細に解析した結果、既知のリグニン資化性微生物に比べて、その分解活性は著しく低くなることを明らかにした。またゲノムシーケンス解析により、U. thermosphaericusにはリグニン分解に必要とされる酵素遺伝子群の一部が欠如していることを明らかにした。 上記の研究結果を鑑みて、高いリグニン分解活性を有する微生物を新たに分離するため、自然界より採取した環境土壌を利用して広範なスクリーニングを実施した。その結果、リグニン分解活性は有していないが、栄養素が乏しい貧栄養条件下で増殖能を有する細菌を1株分離した。また、既知の貧栄養耐性細菌の多くは、栄養源が豊富に存在する栄養条件下では著しい増殖阻害を受けるのに対し、本分離株は優れた増殖能を示した。産業利用されている大腸菌や酵母は、機能性化学品を発酵生産するためには豊富な栄養源を必要とするが、その生産能は栄養素が欠乏すると著しく低下する。しかしながら、本分離株は栄養要求性が低いため、発酵生産用の宿主としての利用可能性を示した。 本分離株の分類を明らかにするため、系統学的解析や生化学的解析、ゲノムシーケンス解析等を進めた。それらの結果、本分離株は腸内細菌科に属する新属新種細菌として提唱可能であった。そこで、それらの解析結果をまとめ、本分離株を新種微生物として特許出願した。
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