研究課題
本研究では植物細胞におけるピロリン酸(PPi)濃度維持機構の解明を目指している。PPiは極めて基本的な生体内分子であり、数百の代謝過程において発生する。その濃度は生物の様々な代謝に大きな影響を与えるが、植物においてはその制御機構が分かっていない。我々は液胞膜H+-PPase:VHP1/FUGU5, 細胞質基質sPPase:PPa1-5が分解に関与することを見出しており、これらを研究対象として解析を進めている。設定した研究課題について進捗を述べる。1: PPi代謝におけるH+-PPaseとsPPaseの協調的役割について解析を進めている。PPa1,2,4,5について、GFP融合タンパク質を用いた組織局在のデータをまとめた。また、fugu5 ppa1二重破壊株では根端が低浸透圧に耐えられずに破裂することからPPi蓄積による細胞壁の弱体化を予想していたが、細胞壁成分の解析を染色法及び糖分析法により行うことで、セルロース、カロース量が減少、またペクチンの組成が変化していることを見出した。ヘミセルロースについても減少を示唆するデータが得られている。カロースの減少は細胞板形成不全の表現型とも一致する。これまでに得られた結果を含めてThe Plant Cell誌に投稿し、掲載が決定した。2:H+-PPaseとsPPaseの発現は組織により偏りがあることから、組織ごとに最適なPPi濃度が存在すると予想している。VHP1は蜜腺で高発現する特徴があるが、PPa1も蜜腺において高発現していることを発見した。VHP1、PPa1破壊株について蜜中の糖含量を測定したところ、有意な減少が見られた。このことから、VHP1、PPa1を高発現することによってPPi濃度を低めに保ち、蓄積したデンプンを分解、また可溶性糖の濃度を高く保つように代謝経路を調節していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
得られた成果をThe Plant Cell誌に掲載することが決定している。論文改訂の際に習得した細胞壁解析の手法により、今後の研究をより推進することができる。
組織特異的なPPi濃度調節機構について、現在のところ根端コルメラと蜜腺の2か所においてそれぞれ予想していた結果が得られている。今年度はこれらを更に検証するため、新たな形質転換株を作出する。また、HPLCを用いたPPi定量法について検出方法の改良が進んでおり、様々な組織や、破壊株・過剰発現株についてPPi濃度測定を行う。またPPi濃度変化により調節を受ける代謝ポイントを新たに一つ見出している。本件について論文を執筆中であり、初夏の投稿を目指している。
研究に利用した機材や消耗品について、他の繰越せない予算を優先して使用したために、本予算の剰余が発生した。
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The Plant Cell
巻: 30 ページ: 印刷中
Plant & Cell Physiology
巻: 59 ページ: 印刷中
Plant Molecular Biology
巻: なし ページ: 印刷中