植物疫病菌はトマト及びジャガイモに感染し葉に暗褐色の病斑を作るだけでなく、果実を腐敗させる感染症であり、近年発生が増加している植物病害の1つである。また、疫病菌は防除が難しく、作柄に大きく影響する病害として恐れられている。現在使用できる農薬は限られており、人体への影響や環境汚染の問題からも、疫病菌に特異性の高い選択性農薬の開発が急務となっている。本研究では植物疫病菌のL-スレオニン代謝に重要な役割をする「L-スレオニン脱水素酵素 (ThrDH)」に着目している。植物疫病菌から見出された新規なタイプのThrDHを特異的に阻害する新しい農薬開発の基礎を築くことを目的として計画した。 植物疫病菌Phytophthora infestansからL-スレオニン脱水素酵素(ThrDH; PITG_05140)ホモログ遺伝子の同定を行った。発現用ベクターにクローニングを行った後、大腸菌BL21codon plus (DE3)RIPLを用いIPTGによる遺伝子の発現を行った。遺伝子発現産物はTalonコバルトアフィニティーカラムで精製を行い、NAD依存性ThrDH活性を有す事を明らかにした。SDS-PAGEで単一にまで精製した結果、酵素のサブユニット分子量は55 kDaでありアミノ酸配列から予測される分子量と一致した。また、N末端アミノ酸配列解析の結果はSDKIIHLTDDであり、予測されるアミノ酸配列と一致した。チオレドキシンタグ切断後の酵素はL-スレオニン、DL-3-ヒドロキシノルバリンのみを基質とし、L-システイン、N-アセチルグリシンが阻害剤になることを明らかにした。
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