研究課題/領域番号 |
16K18699
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 崇 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (90771676)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 胆汁酸 / 骨格筋 / TGR5 |
研究実績の概要 |
TGR5は胆汁酸をリガンドとするGPCRであり、全身に広く発現が認められる。血中胆汁酸濃度は摂食後にピークに達するため、TGR5は摂食シグナルを受容する機能を担うと想定される。骨格筋特異的TGR5トランスジェニック(Tg)マウスを用いた解析より、TGR5が筋肥大効果を有することを明らかにしており、この分子メカニズムの解析を中心に研究を進めている。 まず培養骨格筋細胞を用いてTGR5が筋細胞分化に及ぼす影響の解析を行った。TGR5を活性化させた状態で筋細胞分化を誘導することで、TGR5非活性化群に比べて種々の筋細胞分化マーカー遺伝子の発現上昇が確認され、形態的にも筋細胞分化が亢進していた。またTgマウスにおける筋肥大メカニズムを明らかにするため、Tgマウス骨格筋にTGR5リガンドを筋肉注射し、遺伝子発現変動を測定した。その結果、TGR5の活性化によりタンパク質合成亢進に関わる遺伝子群の発現上昇およびタンパク質分解に関与する遺伝子の発現低下が認められた。さらにマイクロアレイによりTGR5の新たなターゲット遺伝子の同定を試みており、Tgマウス骨格筋において発現亢進していた遺伝子の中には、骨格筋における機能が解明されていないものも多く含まれていた。現在、これらの遺伝子に関して詳細な機能および発現調節機構の解析を行っている。 一方で、Tgマウスにおいて長期高脂肪食負荷に伴うインスリン抵抗性が減弱することも見出しており、骨格筋TGR5が脂質代謝改善に関与すると予想し検証を行った。しかし、代謝ケージによる呼吸交換比およびエネルギー消費量の測定の結果からは野生型マウスとTgマウス間で大きな差は認められなかった。現在のところ、骨格筋の肥大化が直接グルコースクリアランスの改善につながったものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)TGR5が筋細胞分化に及ぼす影響の解析 培養骨格筋を用いた実験より、TGR5が筋細胞分化を亢進することを明らかにした。特に、ある種のキナーゼをノックダウンすることでTGR5誘導性筋細胞分化亢進が抑制されることも明らかにしており、分子メカニズムに関していくつかの興味深い知見が得られている。本研究結果は、摂食が胆汁酸を介して筋修復などに寄与する可能性を示しており、当初の期待以上の成果である。 2)TGR5による筋肥大メカニズムの解析 骨格筋においてTGR5を活性化させた際の遺伝子発現解析より、TGR5による筋肥大メカニズムの少なくとも一部が明らかにすることができた。さらに、マイクロアレイによりTgマウス骨格筋において発現変動する遺伝子を多数特定しており、新規筋機能制御遺伝子が見出されることが期待される。いくつかの遺伝子に関しては、既に機能および発現制御機構の解析に取り掛かっている。また来年度に予定していたTGR5 KOマウスの解析も前倒しで進めており、TGR5と骨格筋肥大との関連をより強固に結びつけるデータが揃いつつある。 3)骨格筋TGR5が脂質代謝に及ぼす影響の解析 予想には反していたものの、代謝ケージを用いた実験から骨格筋TGR5が代謝調節に及ぼす影響は大きくないという可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)新規TGR5ターゲット遺伝子の機能および発現調節機構の解析 マイクロアレイにより同定された新規TGR5ターゲット遺伝子に関して、promoter assayを中心に発現調節機構や転写制御エレメントの同定を行う。同時に、当該遺伝子を過剰発現した骨格筋培養細胞を用いて機能解析を行う。今後、メタボローム解析等を駆使した網羅的な機能研究を予定している。 2)TGR5 KOマウスを用いたTGR5の機能解析 TGR5 Tgマウスで確認されたフェノタイプに関して、TGR5 KOマウスを用いてさらに詳細に検討を行う。KOマウスの解析は予定を早めて既に着手しており、今後さらに詳細な解析を行う予定である。 3)骨格筋TGR5によるサルコペニア予防 Tgマウスを長期飼育し、経時的に筋力を測定することでTGR5がサルコペニアの予防に貢献し得るか検証を行う。既に長期飼育を開始しており、これを継続する。
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