研究課題/領域番号 |
16K18703
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 春弥 京都大学, 農学研究科, 助教 (30750369)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 機能性成分 / 食品 / 植物 |
研究実績の概要 |
本年度の主たる研究業績は、トマト抽出物中から抗肥満に重要な抗炎症能を有する多数の成分を特定したことである。 本研究における抗炎症成分の主たる探索対象となるトマト果実は、リコピン等の一般に広く知られている有用成分が含有される一方、このような機能の解明が進んでいる成分はごくわずかであり、5000種以上存在すると推定されている果実中成分の全体像はその機能を含めほとんど解明されていない。そのため、有用な未知の抗炎症成分がトマト果実中に多数存在する可能性が極めて高いと考えた。 今年度の研究において、トマト果実抽出液の分配及び高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 等による成分分離という従来法と、高感度・高精度の性能を有する液体クロマトグラフィー・質量分析計 (LC-MS) を用いた最新の分析技術、さらには、膨大な化合物が登録されている代謝物データベースを用いた解析手法を組み合わせ、効率的かつ正確に新規の抗炎症成分を特定することを可能にする系を構築した。 この系を用いることで、まず、トマト果実抽出物から、分画により約180個の抗炎症能画分を得ることができ、さらに、当該画分中から抗炎症能を有する多数の成分を特定するに至った。また、これらの特定した成分中で、抗炎症能力が強い成分を二種類 (脂肪酸誘導体及びクマリン類に属する代謝物) を同定するに至った。 さらに、これら2種類の抗炎症能を有する成分の作用機序について検討した結果、炎症惹起に重要なシグナル伝達経路の一部を阻害することを培養細胞系において見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、初年度の研究目的に掲げた、果実抽出液の分配及び高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 等による成分分離という従来法と、高感度・高精度の性能を有する液体クロマトグラフィー・質量分析計 (LC-MS) を用いた最新の分析技術、さらには、膨大な化合物が登録されている代謝物データベースを用いた解析を組み合わせ、効率的かつ正確に新規の抗炎症成分を同定し、トマト果実中に含まれる抗炎症成分の全貌を明らかにするという点においては、当該系を確立し、これを用いることで多数の抗炎症能を有する成分を特定できた観点から、ほぼ予定通りの進捗であるといえる。 さらには、同定した抗炎症能を有する成分の中で特に活性が強い成分である脂肪酸誘導体及びクマリン類に属する代謝物の2種類については、当該代謝物が有する抗炎症能の作用機序についても培養細胞系を用いて検討し、炎症惹起に重要なシグナル伝達経路の一部をこれらの成分が阻害することを見出すことができ、当該代謝物の作用メカニズム解明の手掛かりとなる知見を得ることができた。 しかしながら、当初の想定以上に、トマト果実中に抗炎症能を有する成分が膨大な数にのぼることも同時に明らかとなった。すなわち、単一もしくは比較的少数の成分による、トマトが有する食品機能性の説明は困難であり、多様な成分の総合力による機能性評価が重要であることを示唆する結果であることから、この点を十分に考慮して、次年度以降の研究を推進する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、本年度同定した抗炎症能を有する成分を中心に、その効果を動物個体レベルで評価することが主たる研究内容となる。しかしながら、「現在までの進捗状況」項に記載した通り、当初の想定以上に、トマト果実中に存在する抗炎症能を有する成分が膨大な数にのぼることが明らかとなった。すなわち、単一もしくは比較的少数の成分による、トマトが有する食品機能性の説明は困難であり、多様な成分の総合力による機能性評価が重要であることを示唆する結果であることから、この点を十分に考慮して、次年度以降の研究を推進する必要があると考えられる。 具体的には、単一の同定成分を用いた動物試験ではなく、これら抗炎症能を有する成分が多数含まれているトマト果実粗抽出物を用いた動物試験系を構築し、当該試験系におけるトマト果実の機能性評価を実施すべきであると考えている。さらに、トマト果実粗抽出物を摂食させたマウスの各臓器・血中において、初年度に同定した成分の分布・動態をLC-MSを用いて解析することにより、トマト果実中成分の機能性評価を動物試験系において明らかにしたいと考える。 また、これらの得られる知見を、学術論文や学会等での発表により、積極的に発信する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
化合物同定に関する実験・分析・解析費用が当初想定内に収まった点、および研究成果を発表する場である学術論文作成に関する諸費用 (英文校正等) や学会発表に関する諸費用 (出張旅費等) が次年度以降にずれ込んだことが主たる要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
当該助成金及び翌年度分請求助成金を合わせ、動物試験系の構築及び、当該系を用いたトマト果実の動物個体レベルでの機能性評価に重点的に使用する予定である。さらに、研究成果の発表として、学術論文作成諸費用 (英文校正等) や、学会発表諸費用 (出張旅費等) に使用する予定である。
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