研究課題/領域番号 |
16K18706
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
増澤・尾崎 依 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (70614717)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | FGF21 / タンパク質低栄養 / 低タンパク質 |
研究実績の概要 |
本年度はまず,WTおよびFgf21-KOマウスに低タンパク質食(5P)あるいは対照食(20P)を給餌し,タンパク質低栄養が誘導するFgf21による肝臓脂肪蓄積抑制のメカニズムについて検討した。5P摂取はWTマウスの褐色脂肪組織(BAT)および鼠蹊部白色脂肪組織(ingWAT)における脱共役タンパク(UCP)-1遺伝子の発現を誘導したが,この誘導はFgf21-KOにより完全に抑制された。したがって,タンパク質低栄養により誘導されるFgf21はUCP-1の発現上昇に必須であることが明らかになった。次にアディポサイトカインの影響について検討を行ったところ,WATのレプチンおよびNrg4遺伝子の発現量には群間に差はなかった。また,肝臓のレプチン受容体遺伝子の発現量はFgf21の有無に関わらず5P摂取により有意に増加した。一方,アディポネクチンの遺伝子発現量はingおよびepiWATにおいて低タンパク質食摂取により増加し,その増加は有意ではないがFgf21-KOによりキャンセルされる傾向を示した。また,3T3L1脂肪細胞におけるアディポネクチンの遺伝子発現はアミノ酸欠乏により増加し,この増加もFgf21のノックダウンによりキャンセルされる傾向を示した。以上の結果より,脂肪細胞ではタンパク質・アミノ酸欠乏に応答して増加するFgf21がオートクリン的に作用してアディポネクチンの遺伝子発現を増加させる可能性が考えられた。また,肝臓において脂肪酸の合成・分解・脂質の取り込みおよび輸送に関連する遺伝子の発現量を測定した結果,Pgc1αの遺伝子発現量が5P群で減少し,その減少率は WTと比較してFgf21-KO群で高かったことから,タンパク質低栄養が誘導するFGF21は脂質分解を促進する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は初代培養肝細胞を用いた検討を実施する予定であったが,初代培養肝細胞における脂肪の蓄積量が予想よりも少なく,当初の計画通りに実験を進めることができなかった。したがって平成29年度は,培養条件の検討も含めて引き続き初代培養肝細胞を用いた研究を継続する予定である。一方,当初平成29年度に実施する予定であったアディポサイトカインに関する実験に着手することができ,その結果,タンパク質低栄養が誘導するFGF21がアディポネクチンの発現を増加させることを示唆する結果を得ている。さらに平成28年度は,当初利用を計画していた3T3L1脂肪細胞よりもUCP-1の発現を測定するのに適したingWATのstromal vascular fraction(SVF)由来の初代培養白色脂肪細胞を用い,新たにアミノ酸欠乏の影響を検討する実験系を構築することができた。したがって平成29年度は,当初のFgf21をsiRNAによりノックダウンする計画に加え,Fgf21-KOマウス由来の初代培養白色脂肪細胞を用いた実験を推進することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は申請時の研究計画に従い,低タンパク質食を給餌したFgf21-KOマウスのVLDL分泌速度を対照群と比較するため,低タンパク質食を給餌したFgf21-KOマウスの尾静脈にLPL阻害剤(Triton WR1339)を投与して末梢におけるVLDL の分解を抑制し,血中TAG濃度を経時的に測定する実験を行う。また,平成28年度に完了しなかった肝臓のコレステロールの合成に関する実験として,Fgf21-KOマウスに対してマウスに有効なスタチンを投与して肝臓のコレステロール合成を抑制したうえで低タンパク質食を給餌し,肝臓コレステロール蓄積量をWTマウスと比較することにより,Fgf21-KOマウス肝臓でコレステロール合成の誘導を介してコレステロール蓄積が増加しているのかどうかを検討する。同時に,Fgf21KOマウス由来の初代培養白色脂肪細胞を単離してアミノ酸欠乏培地にて培養し,種々の解析を行う。また平成28年度に得られた結果を受け,新たに呼気ガス分析やThermoneutral条件下での飼育実験を行い,タンパク質低栄養が誘導するFgf21がUCP-1を介して肝臓脂肪蓄積を抑制しているのかどうかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初代培養肝細胞の実験およびスタチンを使用したコレステロール代謝に関する動物実験が当初の計画通りに進まなかったため,平成28年度の計上額よりも使用額が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は平成28年度に完了しなかった上記の研究計画に加えて,新たに当初計画書に記載していなかった初代培養白色脂肪細胞の単離・培養や呼気ガス分析などを計画しているため,実験動物,実験動物用飼料・床敷など,一般試薬,細胞培養実験試薬およびプラスチック器具の購入費に充当する計画である。
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