研究課題
多発性硬化症は遺伝的要因が大きく関与する中枢神経系炎症疾患であるが、腸内細菌をはじめ とする環境要因が症状発症・重篤度に多大な影響を与えることが明らかになってきた。これらの知見をもとに、中枢神経系炎症制御に関与するヒト腸内細菌を同定するとともに、活性成分の同定および作用メカニズムの解明を試みる。無菌マウスに健常人糞便を投与し、さらに各種抗生物質を自由摂取させることで、異なるヒト腸内細菌叢を有するマウスを作製した。これらのマウスにミエリンペプチドを免疫し、多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)を発症誘導した。その結果、ヒト腸内細菌定着マウスにおいても、通常マウス(SPF飼育環境下)と同程度のEAE症状を誘発できることが確認できた。また、ampicillinを自由摂取したマウスでは小腸および大腸粘膜固有層のTh17細胞が増加するとともに、四肢の麻痺といったEAE症状が増悪した。さらに、抗生物質を投与していないマウスにおいても、小腸および大腸Th17細胞数とEAE症状との間に相関関係が見られた。これまでに、腸内細菌によるTh17細胞の誘導にserum amyloid A, IL-23, または活性酸素種が関与していることが報告されている。そこで、小腸および大腸におけるこれらの関連遺伝子(Saa1, Saa2, Saa3, p19, p40, Duox2, and Duoxa2)発現を解析したが、Th17細胞数と遺伝子発現量に相関は認められなかった。以上の結果から、本研究におけるヒト腸内細菌によるTh17細胞の誘導には別の機序が関与していることが示唆された。現在、小腸および大腸内細菌叢の解析を進行中である。
3: やや遅れている
十分な数の無菌マウスおよび無菌ビニルアイソレーターを準備することができず、当初の計画よりも解析に用いたマウスの数が少なくなってしまった。現在、十分な数の無菌マウスを使用できるよう手配を進めている。一方、当初の予定どおり抗生物質投与によりEAE症状および腸管Th17細胞数を変動させることができた。このことは、本研究の軸となる「中枢神経系炎症に関与するヒト腸内細菌菌株の単離同定」を達成するにあたって、非常に重要な結果である。
引き続きヒト腸内細菌を定着させたマウスにEAEを発症誘導し、中枢神経系、宿主免疫系、および腸内細菌叢間の相関解析に十分なデータを取得する。得られたデータから中枢神経系炎症に関与するヒト腸内細菌の候補菌株を探索する。また、特定された候補菌株を単離し、モノアソシエイトマウス(もしくは複数菌株定着マウス)を作製し、中枢神経系炎症に関与する菌株を同定する。また、中枢神経系炎症に関与する菌活性成分の同定、および作用機序の解明を試みる。
予定していた無菌マウスを準備できず、次世代シーケンサーによる菌叢解析を行わなかったため、次年度に繰り越した。
次年度は計画通り、次世代シーケンサーを用いた菌叢解析、ゲノム解析、およびメタボローム解析を行うことにより中枢神経系炎症に関与する菌株の同定と活性成分の探索を行う。
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