多発性硬化症は遺伝的要因が大きく関与する中枢神経系炎症疾患であるが、腸内細菌をはじめとする環境要因が症状発症・重篤度 に多大な影響を与えることが 明らかになってきた。これらの知見をもとに、中枢神経系炎症制御に関与するヒト腸内細菌を同定すると ともに、活性成分の同定および作用メカニズムの解明を試みる。昨年度までに、ヒト糞便から単離したErysipelotrichaceae科の菌がEAEにおける中枢神経系の炎症を促進することを確認した。本年度、すでに多発性硬化症患者で増加が確認されているAkkermansiaの関与も含め、食事による腸内細菌叢の変動がEAEの発症にどのような影響を与えるか検討をおこなった。 Akkermansiaを含むヒト由来腸内細菌14菌種を無菌マウスに定着させノトバイオートマウスを作成した。本マウスに高繊維食または無繊維食を与え、腸内細菌叢および代謝産物の変動を誘導したのち、常法に従ってEAEを発症誘導した。その結果、無繊維食を与えたマウスの方がより重篤なEAEを発症することが明らかになった。中枢神経系に浸潤した免疫細胞を解析した結果、無繊維食マウスではより多くのIFN-g/IL-17A double positive CD4T細胞が脊髄に浸潤していた。一方、高繊維食を与えたマウスでは、Foxp3+CD4T細胞の脊髄への浸潤が増加した。腸内細菌叢を比較した結果、無繊維食によりAkkermanisaが顕著に増加した。また、Akkermansiaの増加に伴い腸管におけるIFN-g/IL-17A double positive CD4T細胞が増加していた。 以上の結果から、食事成分による腸内環境の修飾が中枢神経系の炎症に大きく影響を与えることが明らかになった。
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