研究課題
針葉樹1種(カラマツ)と広葉樹2種(アサダ、ウダイカンバ)の苗木を対象に、5月に根切りを行った後に苗畑へ植栽し、水輸送効率の低下と枯死の関係について検討した。その結果、根切り処理から一ヶ月後(6月)の苗木に関しては、全ての樹種においてほとんどの根を失った個体も大半が生存していたが、晩夏から秋(10月)にかけて広葉樹2種では多くの根を失った個体において枯死が確認された。また、根切り処理区の全ての生存個体において発根が認められた。これらの結果から、根切り後の移植に伴う枯死を判定するためには、移植後数ヶ月間の調査を行う必要があることが明らかになった。カラマツは広葉樹2種と比較した際、透水性が低く水ストレス耐性が高い傾向を示し、幹の水輸送効率の低下はほとんどの根を失った個体においても試験期間を通じてほとんど認められなかった。一方、アサダとウダイカンバは多くの根を失うと幹の水輸送効率の低下が認められた。これらの結果から、根切りに伴う水輸送効率への影響は樹種毎で異なり、透水性の低い樹種は根切りによる水輸送効率の低下がおきにくいため、水分欠乏の危険性が低いと考えられた。針・広葉樹間の木部通水組織は構造的特徴が異なることから、種毎の透水性を評価することにより、移植時の水分欠乏の危険性を予測することができると考えられた(梅林ら 日本森林学会大会発表、Umebayashi et al. Botany 2017研究集会発表予定)。
2: おおむね順調に進展している
根切り試験の結果から、水輸送効率の低下と枯死の関係を理解するためには短期間だけでなく、長期間の調査が必要であることを複数の樹種から示すことができた。短期間では枯死の判定ができなかったため、染色液による通水域の可視化や顕微鏡による木部組織の観察を行うことができていないが、根切りによる水輸送効率への影響を定量的に評価することが可能になったことは大きな進展である。
ポット苗にて水ストレス試験を行ってきたスギ、クロマツ(Umebayashi et al. 2016, Tree Physiology)、ハリギリ(Umebayashi et al. 2016, Planta)などの基礎データを蓄積している樹種を対象にした根切り試験を行うことにより、針・広葉樹間だけでなく針・広葉樹内での水輸送効率への影響を明らかにする。染色試験による通水阻害域の空間分布及び木部の構造解析を行うことにより、根切りに伴う水輸送効率への影響を明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (1件)
European Journal of Plant Pathology
巻: 147 ページ: 463-467
10.1007/s10658-016-1013-8
Tree Physiology
巻: 36 ページ: 1210-1218
10.1093/treephys/tpw050
Planta
巻: 244 ページ: 753-760
10.1007/s00425-016-2564-9
Trees-Structure and Function
巻: 30 ページ: 305-316
10.1007/s00468-015-1302-4
巻: 145 ページ: 227-231
10.1007/s10658-015-0829-y