植栽直後の個体は、根切りや生育環境の変化による吸水力の低下により成長不良や枝枯れ・枯死を引き起こしやすい。植物が水ストレスにさらされると、水輸送を担う通水組織(仮道管や道管)内で通水阻害が発生するため、木部全体の通水性が低下する。水ストレスと通水性の低下の関係は種毎で異なるため、水分生理の観点から種毎の耐乾性の違いや分布特性に関する研究が行われてきた。しかし、移植などの植栽を目的とした研究に関しては、詳細な調査が行われているとは言い難い。そこで本研究では、針葉樹2種(クロマツ・スギ)と広葉樹2種(ハリギリ・シラカンバ)を対象に、植栽による種毎の通水性への影響を明らかにする目的で根切り試験を行った。 クロマツとスギは苗畑の植栽木を使用し、掘り取り無し、掘り取りのみ、根切り区(50%・75%・100%根切り処理)を初夏に作成し、秋に全個体の主幹の通水性を調査した。広葉樹2種はポット苗を用いて同様の根切り区と対照(根切り無し)区を作成し、同時期に通水測定を行った。 根切りによる枯死が認められた樹種はハリギリのみであり、他の樹種はほぼ全ての根を切断して植栽しても生存していた。クロマツは、100%根切り区で通水性の低下が認められた。スギは、100%根切り区と掘り取り無し区間で通水性の低下に差が認められたが、掘り取りのみと根切り区間の通水性は類似であった。ハリギリとシラカンバに関して、根切り直後の水ポテンシャルの低下は生存個体では認められなかった。ハリギリは、75%根切り区において通水性が著しく低下した。シラカンバは、75%・100%根切り区と対照区間で通水性に差が認められた。 以上により、根切りによる通水阻害の発生はハリギリのように長い道管長を形成する樹種で起きやすく、根切りによる通水性の低下は、根の再生のために木部の水が利用されたことが主因であると推測された。
|