本研究の目的は、保残伐施業による生物多様性保全の保全効果を評価することである。保残伐施業とは、伐採時にあえて樹木を伐り残すことで生物の棲家を確保し、多様性の保全を図る施業方法である。本研究では、これまで生物多様性の指標として広く用いられてきた「生物種数(α多様性)」に加えて、「場所間の種組成の違い(β多様性)」や「ある場所に住む生き物の進化・系統的な多様性を評価する指標(系統的多様性)」を分析することで、多様性形成の裏にあるメカニズムも合わせて明らかにする。対象分類群は土壌微生物などとする。 三年目となる本年度は、主に統計解析と論文執筆・投稿を行った。具体的には、保残伐施業が実施されているフィンランドFIRE試験地の植物群集データを使って、保残伐施業がα・β多様性に与える影響を解析した。保残伐施業が行われた林分は、伐採されていない林分と比べてα多様性が高くなった。一方で、β多様性は「保残伐」「伐採なし」「皆伐」に関わらず、変化しなかった。この結果は「皆伐すると森林が本来持つ空間異質性が失われる」という従来の想定を覆すものである。一方で、保残伐が行われた場所では、伐採後に新たに定着する植物のβ多様性が高かった。これは、保残された森林パッチが避難場所として機能し、そのパッチが伐採跡地への植物への再定着を促したのだと考えられる。また、伐採跡地において植物が遷移していく際、その系統的多様性がどのように変化するかを個体ベースモデルを使ってシミュレートした。その結果、隣接個体間の競争が系統的多様性を大きく規定することが示された。研究成果は国際英文誌Journal of Ecologyに掲載された。
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