研究実績の概要 |
気候変動により森林を構成する樹木の種類が変わることが危惧されている。このような種組成の変化は人間社会に様々な影響を及ぼすため,将来の種組成を予測することが求められている。従来の予測モデルは,樹木の分布が気候などの環境条件で決まるという環境制限を前提としている。樹木の分布を決めるもう一つのメカニズムである散布制限(樹木の種子の散布距離が制限されていること)は無視されてきた。しかし,今日では各地の森林が分断化され,散布制限の重要性が高まっている。 本研究は,環境制限と散布制限とを統合した群集モデルと大規模野外データとを結合し,将来の気候および森林の分断化の進行によって,アジアの熱帯から亜寒帯までの森林の種組成が実際にどのように変化するのかを予測する。 2021年度は収集したデータを用いた群集モデルの解析にむけて、既存モデルの調査を行った。また収集データを用いた解析を国際誌に投稿した:Contribution of conspecific negative density dependence to species diversity is increasing towards low environmental limitation in Japanese forests. Pavel Fibich, Masae I. Ishihara, Satoshi N. Suzuki, Jiri; Dolezal, Jan Altman. Scientific Reports誌.この研究では、多様性の決定要因である負の密度効果がどのように森林間で異なるのかを明らかにするため、全国32ヶ所の天然林において、同種他個体による負の密度効果を算出した。密度効果は標高が低い森林で高くなった。さらに森林の種多様性は、積雪量が少なく、負の密度効果が大きいほど、高くなった。環境条件だけでなく、病原菌や植食者といった生物的要因も重要であることがわかった。散布制限によってもたらされる調査区内の分布構造を解析した。
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