研究課題/領域番号 |
16K18724
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
今西 亜友美 (牧野亜友美) 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (70447887)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 法面緑化 / 外国産種子 / メドハギ / コマツナギ / 緑化植物 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
近年、生物多様性保全の観点から、のり面緑化に在来植物を利用することが推奨されている。しかし、現在、のり面緑化に利用されている在来植物の種子の多くは、外国から輸入されたものである。そこで本研究では、のり面緑化に多用されるマメ科植物(ヤマハギ、メドハギ、コマツナギ)を対象とし、外国産種子を用いた緑化による自生集団への遺伝的撹乱リスクを評価することを目的としている。今年度は、メドハギとコマツナギについて、国内自生個体の遺伝的変異の地理的分布と、緑化用種子や緑化のり面に生育する個体との遺伝的差異を明らかにした。 両種とも、採取した葉サンプルから、CTAB法を用いて核DNAを抽出し、MIG-seq法によって一塩基多型(SNPs)を検出した。続いて、全サンプルの75%以上の個体に共通するSNPsを用いてSTRUCTUREによるクラスタリングを行った。また、葉緑体ゲノムの増幅が確認されたプライマーを用いてPCRを実行し、シーケンス解析を行った。 クラスタリングの結果、メドハギは6クラスターに分けられた。国内自生個体はクラスター1~6のいずれか1つまたは複数のクラスターに割り当てられ、各地域である程度似た組成を示した。緑化用種子やのり面に生育する個体のうち、アメリカ輸入種子由来はクラスター1と4、中国輸入種子由来はクラスター1、3、4に割り当てられたものが多かった。のり面には、その周辺地域の自生個体と異なるクラスター組成の個体が生育していた。また、葉緑体ゲノムについては3領域で変異を検出できた。 コマツナギは8クラスターに分けられた。国内自生個体はクラスター1、4、6、7に割り当てられ、各地域である程度似た組成を示した。中国産種子と外国産種子を用いて緑化を行ったのり面の個体は、国内自生個体とは異なりクラスター2、3、5に割り当てられた。また、葉緑体ゲノムについては2領域で変異を検出できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、メドハギとコマツナギの核ゲノムを対象として、国内自生個体の遺伝的変異の地理的分布と、緑化用種子や緑化のり面に生育する個体との遺伝的差異を明らかにした。両種とも、のり面にはその地域の自生個体とは異なるクラスター組成の個体が生育していたため、自生集団に対して遺伝的撹乱を引き起こす可能性があることを示すことができた。葉緑体ゲノムについては、変異のある領域のシーケンス解析が終了し、ハプロタイプネットワーク図を作成中である。また、両種については昨年度までに、国内自生個体と外国産流通個体の形態、フェノロジーにも違いがあることを明らかにしている。以上の通り、メドハギ、コマツナギについては、当初計画していた核ゲノムにおける遺伝的差異と形態・フェノロジーの違いに加えて、葉緑体ゲノムにおける遺伝的差異も含めて、外国産種子による遺伝的撹乱リスクを評価できる見通しである。ヤマハギについては類似種が多く同定が難しいため、自生個体の採取数が少ないものの、のり面生育個体のサンプルは採取済みであり、次年度に集中的にサンプル採取と遺伝解析を行う予定である。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
メドハギとコマツナギについては、葉緑体ハプロタイプの地理的分布とハプロタイプ間の類縁関係の分析を進める予定である。ヤマハギについては花期を中心に国内の自生地のサンプル採取を行い、得られたサンプルを用いて国内自生個体の地理的変異の地理的分布とのり面個体との遺伝的差異について遺伝解析を行う。以上の結果をもとに、ヤマハギ、メドハギ、コマツナギの国内自生種子の移動可能範囲や、外国産種子による緑化の遺伝的撹乱リスクについて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)全国の研究協力者とともにヤマハギの国内自生個体のサンプル採取を行う予定であったが、ヤマハギは類似種(マルバハギ、ツクシハギなど)が多く同定が難しい。そのため、協力を得ることができない地点が多く、サンプル収集が進まず、今年度は遺伝解析ができなかったため。 (使用計画)ヤマハギのサンプルを花期に集中的に採取し、採取後に遺伝解析を行う。
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