近年,のり面緑化においても,国内に自生する在来植物の利用が推奨されている。しかし,緑化に使用される在来植物の種子の大部分は外国で生産されており,在来の地域集団に対する遺伝的撹乱が懸念されている。地域性系統の植物による緑化の推進に向けて,令和元年度は,葉緑体DNAを用いてコマツナギの国内集団の遺伝的変異と地理的分布および緑化用種子や緑化個体との遺伝的な違いを明らかにし,外国産種子を用いることによる遺伝的攪乱リスクを評価した。 日本国内のコマツナギの自生地とのり面緑化地に生育する個体,中国産種子から育てた個体と日本産種子を用いて中国で生産された種子から育てた個体(以下,原種子日本産種子)から遺伝解析に用いる葉を採取した。採取した葉からDNAを抽出し,葉緑体DNA上の2領域(850 bp)の塩基配列を決定した。その後,塩基配列上の変異からハプロタイプを識別した。 葉緑体DNAの変異から21種類のハプロタイプが識別された。国内自生のコマツナギからは5種類のハプロタイプが検出され,全国的に分布する1つのハプロタイプがある一方で,東北・北陸地方のみ,太平洋側のみなど局地的に分布する少数のハプロタイプがあることが分かった。原種子日本産種子はすべて東北・北陸地方のみに見られるハプロタイプであり,現在流通している日本産種子は当該地域に由来するものであることが推察された。今後は日本産種子の採取地にも留意して緑化に使用する必要があると考えられる。 中国産種子に由来する個体から検出されたハプロタイプは,すべて国内自生のコマツナギには見られないものであり,日本各地ののり面緑化個体から中国産種子と同様のハプロタイプが検出されたことから,中国産種子の使用は遺伝的攪乱を引き起こす可能性が示唆された。今後はのり面緑化地からの中国産種子由来の個体の逸出状況および自生個体との交雑状況を明らかにする必要がある。
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