樹木の根には菌根菌が共生している。この菌根菌の周りには多様な土壌細菌が生息し、菌糸の成長や菌根(樹木の根に菌根菌が共生した部分)の形成量等に影響を与えることが分かってきた。しかし、これらの細菌が菌根菌との相互作用を通じて子実体(キノコ)発生にどのような影響を及ぼすかについては、研究例が無く全く明らかにされていない。本研究では、人工的な環境下においても子実体発生が可能なLaccaria parvaをモデル材料とし、菌根の周囲に生息する細菌が菌根菌の菌糸伸長量、菌根の形成量、子実体の発生量など、菌根共生の成立と発達に及ぼす役割を明らかにした。野外のL. parva菌根の周辺に生息する細菌の多様性を調査した結果、Bradyrhizobiumが優占していることを明らかにした。栄養培地上でL. parvaと細菌株の対峙培養試験を行うと、ほとんどの細菌株はL. parvaの菌糸伸長を抑制するのに対し、Bradyrhizobiumを含む一部の細菌株は抑制しない、あるいは菌糸伸長を促進させることが明らかとなった。Bradyrhizobium株のうち、L. parvaの菌糸伸長を抑制しなかった株をL. parva―アカマツ共生系に導入すると、子実体の発生量が増加し、成熟した子実体の発生頻度が高くなった。菌糸伸長に悪影響を及ぼさないBradyrhizobium株は、何らかの相互作用を通じて、子実体の発達を補助している可能性が考えられた。以上のように、本研究は野外の菌根周辺に生息する細菌が子実体の発生量や成熟度を向上させることを世界で初めて明らかにした。微生物間の知られざる相互作用の一側面を明らかにした本研究成果は、関連する基礎学問分野のみならず、栽培が難しいとされる菌根性キノコの栽培技術の高度化など応用学問分野の発展にも貢献できる可能性がある。
|