本研究では、木質バイオマスの本体である二次木部細胞の細胞壁形成過程を明らかにするため、樹木由来の培養細胞から二次木部を構成する道管要素や仮道管の特徴である有縁壁孔などの構造をもつ細胞を誘導し、その分化過程における細胞骨格の挙動を解析する事を目的とした。 前年度までに交雑ポプラ培養細胞から管状要素が高頻度で誘導される培地条件の検討と、細胞骨格可視化のための遺伝子導入を行った。本年度は初めに遺伝子導入を行った細胞株について高発現株の選抜を行い、一細胞中で微小管関連タンパク質とアクチンが異なる種類の蛍光タンパク質で標識され両者の局在を観察可能な細胞株を作出した。しかしながら細胞の再選抜に時間を要した事や、細胞の長期にわたる観察条件を確立できなかった事から、この形質転換株を用いた長期の管状要素分化過程の解析には至らなかった。 一方、広葉樹とは異なる木部構造を持つ針葉樹の細胞として、ヨーロッパトウヒ種子由来のカルスの誘導と観察を行った結果、二次壁の肥厚した細胞が観察された。このカルスに形成された二次壁の肥厚した細胞を修飾構造に基づいて分類すると、二次壁を肥厚した細胞のうち、約5割の細胞が有縁壁孔を形成していた。また、このヨーロッパトウヒのカルスは非常にほぐれやすく、液体培地中で用意に懸濁した。これらの特徴から、本研究で作出されたヨーロッパトウヒの培養細胞は針葉樹の二次木部細胞である仮道管の有縁壁孔の構造を詳細に解析する材料としての活用が期待できる。
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