研究課題
近年地球規模の環境変動と持続型社会の構築が求められる中、地球所で最大規模の生合成産物である植物バイオマスをエネルギー資源として利用するための多面的な研究が急務である。なかでも植物を効率よく分解出来る腐朽菌の植物分解機構を理解するための研究が進んでいる。本研究では、木材腐朽菌の中でも未解明な立木加害性の白色腐朽菌ベッコウタケに着目して、多面的なオミクス解析手法により本菌の植物分解機構を包括的に理解することを目指す。ベッコウタケは北海道大学構内をはじめ、日本中で甚大な倒木被害を引き起こしている。それら情報を元に植物バイオマスの利用への一助となる知見を得ることを目標としている。今年度はベッコウタケを北海道大学構内にて被害木から糸状菌を単離した。この糸状菌を顕微鏡観察すると共に、分子生物学的手法により同定した。即ち、液体培地で生育させた菌糸からゲノムDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR法によってITS領域を増幅する。得られたDNA断片をシーケンス解析し本菌がベッコウタケであることを同定した。得られた菌糸を様々な炭素源を用いた培養条件下で生育させた場合に生産される菌体外タンパク質生産量やセルロースやヘミセルロースといった植物成分の分解酵素活性を測定した。その結果、セルロース培地によって種々の分解酵素が生産されていることを明らかにした。この菌体外酵素パターンは木粉培地で生産されるパターンと非常に似ていた。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は学会発表を6件、原著論文3編、著書1編、総説1編を発表しており、精力的に研究に取り組んでいたと考えられる。これらの成果は本課題の進展に有益であった。また、本申請において重要なベッコウタケを北海道大学構内にて被害木から単離する事が出来たが、産休を理由に一時休止していたためゲノム情報取得用の菌糸の単離は困難であった。しかしながら取得した菌糸を使って本菌の分解性について基礎的な情報を収集した。したがって、申請者はおおむね順調に進展していると評価した。
今後の予定としては、ゲノム解析用の菌糸を単離し、ゲノムDNAを抽出し、全遺伝子配列情報を取得し、他の菌類との比較解析を行う。また、この情報をデータベースとして利用するプロテオーム解析を用いることで、ベッコウタケが生産している植物バイオマスの分解に関わる酵素を網羅的に同定することを行う事を予定している。これら情報をまとめて学会発表をすることを計画している。
本年度は産前産後休暇を取得したため、本年度実施予定であったゲノム情報の取得を行えなかった。
次年度にて、ベッコウタケからゲノム解析用菌糸を分離し、生育させた菌糸からゲノムDNAを抽出し、配列情報の取得を行う予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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