研究課題/領域番号 |
16K18728
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小瀬 亮太 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60724143)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 紙 / ナノ微細化技術 / 軽量化紙 / 繊維間結合 / リサイクルパルプ繊維 |
研究実績の概要 |
本研究では、リサイクルパルプ繊維から成る「紙力を維持した軽量化紙」の創発を目的とする。紙を緻密化させないために柔軟性の低いパルプ繊維を主体とし、単位繊維接触面積当たりの繊維間結合強度を向上させて目的紙の開発を目指す。 本年度は、まず、ナノファイバー化させない程度にナノ微細化技術をリサイクルパルプ繊維とバージンパルプ繊維に供し、パルプ微細繊維を調製した。さらに、得られた微細繊維からシートを調製し、密度や力学強度をはじめとする基礎な物理的性質を明らかにした。 光学顕微鏡観察によりバージンパルプ繊維とリサイクルパルプ繊維の微細化挙動を検討した。両パルプ繊維の微細化はナノ微細化処理回数の増加に伴い進行するが、処理回数10回程度まではマイクロ幅の繊維が残存していた。また、バージンパルプ繊維に比べてリサイクルパルプ繊維の微細化の進行が遅かった。ナノ微細化処理回数の多い試料から作製したシートの外観は処理回数の少ない試料のシートに比べて濃淡のむらが小さかった。 リサイクルパルプ繊維を出発物質として調製されたシートは、バージンパルプ繊維を出発物質として調製されたシートと比べて同じ密度でありながら高強度を示す場合があった。具体的には、処理回数3,7,10回で調製されたリサイクルパルプ微細繊維シートの比引張強さは、バージンパルプ微細繊維シートよりも大きくなったが、このリサイクルパルプ微細繊維シート密度はバージンパルプ微細繊維シートよりも小さかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の期間は2年間であり、1年目にリサイクルパルプ繊維を各種条件でACC処理し、得られた微細繊維の形態を定量的に評価することを目的とした。 形態的な評価を行うためには、JIS規格に記載の光学的自動分析法で検出可能な繊維サイズの微細繊維を用いる必要がある。そのために、1年目は、ふるい分け試験装置を自作して検出可能な微細繊維の抽出を試みているが、定量的な形態評価にまで進むことができなかった。 しかしながら、2年目に実施予定の軽量化紙の調製のために、得られた微細繊維をすべて用いてシートを作製し密度と引張強さを評価したところ、両パルプ繊維ともに未処理の状態のときよりも密度と引張強さともに向上したが、リサイクルパルプ繊維から得られた微細繊維シートは、同密度でありながらバージンパルプ微細繊維シートよりも高強度を示す場合があった。 1年目の繊維形態の定量的な評価については計画よりも遅れているが、2年目で実施する予定であった軽量化紙の作製については計画通り少ない密度増加でより大きな引張強さを示すことができたことから、総合して、研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1年目で検討したACC処理条件の中から一つの条件に絞り、①リサイクルパルプ微細繊維を調製後、②ふるい分け試験により相対的に粗大な繊維を抽出し、③微細繊維の形態評価を試み、④シートの調製を行う。また、微細繊維懸濁液からシートの調製に至るまでには、プレス脱水およびプレス乾燥工程を経るが、⑤この時のプレス圧を小さくすることによって、微細化による密度増加を抑えることならびに低密度化に至るかどうかを検討する。上記5項目について以下に詳細に述べる。 ①: ACC処理条件の選定基準は、リサイクルパルプ微細繊維シートの密度増加の程度が小さく、かつ、バージンパルプ微細繊維シートとの引張強度の比較において強度差の大きかった処理条件とする。すなわち、噴射圧力100MPaおよび処理回数1回または3回を用いて微細繊維を調製する。また、対照試料としてバージンパルプ繊維からも同処理条件で微細繊維を調製する。 ②: JIS規格に記載のふるい分け試験機に供し、可能な限り粗大な繊維をより多く回収できるふるい目を検討し、ACC処理により得られた微細繊維の中から相対的に粗大な繊維のみを抽出する。 ③: ふるい分けにより得られた粗大な繊維をJIS規格に記載の光学自動分析法を用いて、繊維長、繊維幅等の測定を試みる。 ④および⑤: 1年目と同様の方法でシートを調製すると同時に、脱水、乾燥工程で用いるプレス機のプレス圧を小さくし、シートの低密度化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目に予定していたACC処理により調製した微細繊維の形態評価を依頼分析する予定であったが、その予定を修正し2年目に移行したため、依頼分析費用分の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ACC処理により調製した微細繊維の形態評価を依頼分析する費用として使用する予定である。
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